２２（Kiside） ページ22
それから俺達は8年の空白を埋めるみたいに時を過ごした
2人で住み始めた事を横尾さんに報告すると、横尾さんはまるで自分の事の様に喜んでくれた
横尾さんは、俺の病気の事を太輔に伝えてはいないようで、太輔も俺の事を何も聞いてこない
「何も聞かないんだね。一緒にいなかった時の事…」
「聞きたくない訳じゃないよ？でも、聞かなくてもいいって思ってる。…今が満たされてるからかな。」
こっちが照れてしまうような台詞をさらっと言ってしまう太輔にいつも戸惑ってしまう
「今、ここに宏光がいる。それだけで幸せで過去の事なんてどうでもいいって思ってる自分がいるよ。」
それは俺も同じ
けれど、普通の生活が出来ない自分を受け入れてくれている太輔に罪悪感を感じることもある
「太輔…あのね…俺…仕事辞めたんだ。続けたかったけど…出来なくなって…」
仕事は入院する時に辞めてきた
病気の事を知りながら、俺を受け入れてくれた社長
社員が5人程の小さな会社だったけど、休みがちな俺を皆温かく受け入れてくれた
仕事ができなくなって会社を辞めると言った時も、皆号泣して見送ってくれた
あの時の皆の顔を思い出して泣きそうになった俺を、太輔はそっと優しく抱きしめてくれた
短い言葉で太輔が何を感じ取ったのかは分からなかったけれど、
「良く頑張ったね。」
ただ一言だけ、そう言ってくれた
「でもね、貯金があるから生活費はちゃんと出すよ！それに俺、家事頑張るから！」
太輔の負担になりたくなくて
太輔の邪魔になりたくなくて
必死に太輔に言い訳した
太輔はふわっと優しく微笑んで
「そんな事気にしなくていいよ。病み上がりなんだし、ゆっくりしてて。俺が宏光と一緒にいたいんだから、何も負い目に感じる事なんてないからね。」
太輔は、今横尾さんと同じ会社に勤めている
寂しがりやで人見知りの太輔
「太輔、ミツがいなくて寂しいからって、会社まで俺と同じにしたんだよ(笑)」
横尾さんが笑いながらそう言っていた
大学時代は、ずっと俺の周りをうろうろしてた
キャンパスで俺を見つけては
「宏光―――！」って嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきてたっけ…
あの時…
俺がもし太輔の傍を離れなかったら…
太輔は今どんな人生を送ってた？
俺は太輔の人生を狂わせてはいないだろうか…
優しい太輔の微笑みを見る度に
胸が苦しくなるんだ…
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作者名：MISA
| 作成日時：2015年5月31日 21時
