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「今日も暑いですね」
地面が暑さでゆらゆらと揺れるように見えていた昼下がり。いつも通り木陰に入っていると、先日現れた祖国が再びやって来た。
男はその場を立つこともせず、隣に入れるよう少し端へ寄った。
そんな様子を見て祖国は嬉しそうに微笑み、「ありがとうございます」と発して隣へ座る。
「…また、一段と暑くなりましたね」
「…!ええ、そうですね。流石の私も嫌になってしまいます」
男から声をかけてみれば、祖国は驚いた後に話を続ける。
畏敬の念は抱いていたが、何となく、目の前の祖国と少しでも会話をしてみたかったのだ。
未だに心臓はうるさく脈動しているが、それは聞かないふりをした。
祖国と二度も巡り会えた。それだけで人生の殆どを満足するものだったと言える。
ちらりと祖国の方を見やると、相手も男を見ていて目が合ってしまった。
彼は優しく目を細める。照れ臭いような気がしてならない。
「……何故貴方様は、ここへいらっしゃるのです」
口をついて出た疑問に、男自身もはっとした。思っていた事をいつの間にか形にしてしまっていた。
だが、態々こんな山へ来てまでする用事があるだろうか?基地からも離れていて、人自体珍しい様な場所。
男が知り合いに会わないように、と選んだのだ。なら彼は一体どうして。
「…ある人物の噂を聞きました」
自分の質問とは直接的に関わっていなそうな滑り出し。然しそれを遮って話すことはしない。じっと黙って祖国の話を聞くことにした。
「この国を愛し…生涯を捧げても良いと、そう高らかに宣言していて。
その言葉通り真面目で勤勉に国に仕え、気難しいとの話もありましたが、それはその性分がもたらすものだと」
少しそよ風が吹き、祖国の髪が風に揺らされる。その束が流れるのが、男の目に焼き付いていた。
「ふと、そんな人が…一体どんな人物なのか、気になったのです。
貴方に逢いたくて、ここに来ているんですよ」
その言葉に男は息を呑んだ。
まさかそんな、祖国が自分を気に掛けていると。例え嘘でも良い、そう思った。
目の前の可憐な彼に、弄ばれるだけでも良いと。
「貴方はこちらへ良く来ると…だからここを探していたのです。
大変でしたよ、こんな奥に居るとは。何日か彷徨いました」
「それは……その、申し訳ない事を致しました」
「構いません。私がしたくてしている事ですから」
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凡夫(プロフ) - しょうゆだれさん» ありがとうございます!ゆるゆると更新していきますので是非とも見ていって下さい! (2月8日 0時) (レス) id: 4785ee1503 (このIDを非表示/違反報告)
しょうゆだれ - あなたの書く小説が大好きです!これからも更新楽しみにしてます! (2月4日 11時) (レス) id: cc28abac62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:凡夫 | 作成日時:2024年1月21日 0時