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瞼を閉じ、目の前を黒く染める。夏の暑さは消えずに残り、薄っすらと汗ばませて来る。
「(俺のしている事は間違っているだろうか)」
祖国。その化身に男はまだ会った事が無かった。男が生まれた時には化身は神のような扱いになり、面会など中々出来なくなっていたのだ。
一昔前は住宅街に化身が住んでいたという伝説もあったが、上がそれを無かったことにしたらしい。
だが、自身が愛する国の化身を男は死ぬまでにひと目見たいと思っていた。
一生を通して愛そうと思った国は、どんな姿で、どんな声で、どんな瞳でこの地を見るのだろうか。
微睡みの中でそんな事を考えていた。
日々続く訓練や戦闘に疲れ、たまにはそんな妄想をしたっていいだろうと男は思う。
ふと、誰かの足音が聞こえた。
もし将校であったら、自分がこんな所で休んでいるのが知られてしまう。
バッと起き上がり、辺りを見回す。だが姿は無い。それに少し焦りを覚え、冷や汗をかいた途端に後ろから「もし」と声がかかる。
振り返ると、黒い軍服を着た男が立っていた。少なくとも、自分の知る限りで黒い軍服を着る人物など居ない。
独特のオーラを醸し出す彼に少し気圧されつつも、男はいつでも応戦できるよう構える。
「……誰だ」
「おや、驚かせてしまいましたね」
男が警戒心を出しているのにも関わらず、黒い軍服の男は彼に近付く。
やがて日差しの弱い木陰に踏み入る。二人の距離は少し狭まった。
「少し休んで行きたいのです。思っていたよりも暑くてね」
そう微笑んだ黒い軍服の男の胸元へ視線を滑らせる。そして次の瞬間、男は頭を下げた。
「申し訳有りません、将官殿とは知らずに」
その胸元に輝いた等級のバッジで、自分の犯した罪を知った。自分より遥かに高い地位の相手だった。
そんな様子を見て、くすりと笑うような声がした後「顔を上げて下さい」と発せられる。
様子が伺える程度に軽く頭を上げると、将官は困ったような顔をした。
「良いのですよ、私は滅多に顔を出しませんから。知らなくて当然です。
だから、ね」
男の顎に手を伸ばし、少し持ち上げる。自然と顔を合わせる形になった。然し直ぐに男が飛び退く。
将官はまた困ったように微笑み、木陰に深く入る。
「私も休んで行って良いですか?」
「はい、勿論。私は退きます」
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凡夫(プロフ) - しょうゆだれさん» ありがとうございます!ゆるゆると更新していきますので是非とも見ていって下さい! (2月8日 0時) (レス) id: 4785ee1503 (このIDを非表示/違反報告)
しょうゆだれ - あなたの書く小説が大好きです!これからも更新楽しみにしてます! (2月4日 11時) (レス) id: cc28abac62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:凡夫 | 作成日時:2024年1月21日 0時