貴方の手中に 日本 ページ43
日本×軍人男主
戦争の表現があります
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「貴様、敵前逃亡か!?祖国への忠誠を忘れたか!!」
真夏の空の下、男の怒号が響いていた。
怯えて泣く青年の胸倉を掴み上げ、苛立ちを隠せない様子で静かに問う。
「……どんな理由があろうとも、祖国に報いる事が全てだ。貴様はこの日本の国民であるのだぞ」
怒りで声を震わせる男に、青年はただ泣く事しか出来なかった。
青年はもうすぐ戦地へ赴く筈だったが、その前日の夜に宿舎を抜け出して逃亡を謀ったのだ。
「じ、自分は…日本国民で在る前に一人の人間であります………愛する者をおいては」
「俺の話が分からんのか。『どんな理由があろうとも』だぞ」
腰に刺された軍刀に片手を掛ける男。青年は恐ろしくなって押し黙った。
そんな所に青年の同胞がやってくる。
「申し訳ありません!!
どうか、どうかこいつは戦場へ行かせて下さい、今ここで殺すよりも、戦わせたほうがお国の為でしょう」
同胞は深々と頭を下げた。頭を下げる、というより地面に擦りつけて。
男はふん、と鼻を鳴らした後青年を地へ放り投げる。
青年は短い悲鳴を上げて横たわった。その怯えた瞳に男は再び怒りを覚える。だがそれを口に出すことは無かった。
「…二度目は無い。次があるとすればお前の喉を斬る」
男はそう吐き捨てて去っていく。青年は泣き喚き、同胞がその肩を抱いて何やら話しかける。
そんな様子を、酷く冷たい目で男は見ていた。
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木陰に入り、男は夏の猛暑を避けるように座っていた。
日課である走り込みを終え、少し奥まった山地で休んでいたのだ。
木漏れ日を肌に感じながら、先日の逃亡騒ぎを思い出す。
男は国を愛していた。文字通り、命をかける事になっても愛している。
身内は既に死に、婚約者も居ない。まさに国の為に生まれたような男だった。
だからこそ、男は愛国心を募らせていく。
国は死なない。常に彼の側に居る。
例え国が潰えたとしても、居た存在は残るのだ。
人に先立たれるのを恐れた事もあり、拗れた思想が愛国心に昇華されたのかもしれない。
祖国の為に死んで行くなら、喜んでこの命を捧げるつもりであった。
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凡夫(プロフ) - しょうゆだれさん» ありがとうございます!ゆるゆると更新していきますので是非とも見ていって下さい! (2月8日 0時) (レス) id: 4785ee1503 (このIDを非表示/違反報告)
しょうゆだれ - あなたの書く小説が大好きです!これからも更新楽しみにしてます! (2月4日 11時) (レス) id: cc28abac62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:凡夫 | 作成日時:2024年1月21日 0時