44話 ページ44
目の眩むような緑の閃光が走った。次の瞬間には、蜘蛛は死んでいた。
なんの傷も、印もない。でも確かに死んでいた。
｢……よくない。気持ちのよいものではない。しかも、反対呪文は存在しない。防ぎようがない。これを受けて生き残った者は、ただ一人──その者はわしの目の前に座っている｣
ムーディの両眼がハリーを覗き込む。
父さんも母さんも、こうして死んだのか。
あの蜘蛛と同じように何の傷も印もなく、ただ緑の閃光を見て、今にも自分に向かって駆け抜ける死の音を聞いたのだろうか。
何も覚えていない、でも確かに僕の前で──。
女子生徒達の悲鳴を聞いてほぼ反射的に隣のAを見ると、彼女は物も言えない様子で震えていた。
怖くて仕方ないAの気持ちが、ハリーには痛いほど分かった。
彼女の父親が、幼いAの二度と忘れられない心に
ハリーも目の前で両親を亡くしたけど、その時のことは一切覚えていない。
最近になってその時の記憶が断片的に蘇ることがあるけど、親が殺されるのを、そう何度も見たくはない。
一生その光景が記憶に残り続けるAにとって、死の呪文は自分の心のトラウマでしかないのだろう。
その後"許されざる呪文"のそれぞれについてノートを取って授業が終わると同時に、ハリーは真っ先にAを覗き込んだ。
羽ペンを握る手も、羊皮紙に書かれた文字も震えている。
ヒュッと息を吸う音。俯くAの額をつたった汗が、羊皮紙に落ちてシミになった。
それでも汗を拭う素振りも見せない。ただ呼吸は徐々に浅くなって、零れる汗が震えた文字を滲ませていく。
｢A、深呼吸｣
『……』
｢大丈夫。僕を見て｣
『……ハリー』
｢うん、ハリーだよ。A、ムーディが怖い？｣
『……わ…分からない』
わからない。ムーディが怖いのか、あの記憶が怖いのか、呪文が怖いのか、それとも死ぬこと自体が怖いのか。
羽パンが折れそうなくらい強く握っていた手を、ハリーが優しく解いた。
｢もうすぐ夕食だ｣
『……うん』
｢きっとAが好きなものが沢山あるよ｣
正直に言えば、死の呪文は恐ろしかった。母と父のことを思うと内臓をえぐられるようだった。
それでも、Aにだけはそんな自分を見られたくない。これは多分、僕のなけなしのプライドだ。
しっかりしろ、ハリー。お前が弱気でどうする？お前もお前の勇敢な両親のように、大切な人を守って見せろ。
胸に叩き込んで、震える自分を奮い立たせた。
＊
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とま(プロフ) - 平野澪さん» コメントありがとうございます❕気長にお付き合いいただけると嬉しいです…!! (2022年7月8日 1時) (
レス) id: d352a8403d (このIDを非表示/違反報告)
平野澪(プロフ) - 面白かった！！！！ (2022年7月7日 19時) (レス) @page50 id: 46f0f08380 (このIDを非表示/違反報告)
とま(プロフ) - あいさん» コメントありがとうございます❕嬉しいです…!!頑張ります🔥 (2022年6月3日 1時) (レス) id: 168ae22990 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - これすっごく面白いです！！ 続き楽しみにしてます！ (2022年6月1日 20時) (レス) id: 4bcda9126d (このIDを非表示/違反報告)
とま(プロフ) - to_mi_ta_20さん» コメントありがとうございます!!すごく嬉しいです…!!更新が本当に遅いですが、最後まで完結させるつもりなのでお付き合い頂けると嬉しいです❕ (2022年5月23日 22時) (レス) id: 168ae22990 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：とま x他1人 | 作成日時：2022年5月6日 15時
