【呪術廻戦】呪われないでね

・ ページ29

自分が人に伝える時も、相手の目を見てちゃんと伝えようとする。





揺るがない自分の考えを持っていて、いつもそれを中心に世界が回っている。








眩しかった。ひたすら、輝いて見えた。







『恵、知ってる？仲のいい人同士はこうやって、名前で呼び合うんだって。だから私、恵って呼ぶから。恵はAって呼んでね』






屈託なく、音にすればフワッと笑うA。





とても、可愛いと思った。





その笑顔も、そういうこと言うところも。







そのせいで俺の喉から出たのは掠れた「おう、」という一言だけで、恥ずかしかったのを覚えている。









小学生なんて単純で、俺はただ──本当に、本当にAが好きだった。









＊












「久我さん、釘崎さん、間もなく高専です。あと少し頑張ってください」




バックミラーで後部座席を確認しながら、そうやって声をかけてくれる伊地知さん。





『…伊地知さん』


「はい」




『私ね、仲のいい人同士はみんな名前で呼び合うとか、蟻を踏んじゃった次の日は雨が降るとか、そういうこと多分小学校まで信じてたんです』



「…はい？」







小学校も中学校も行ってないけど、そのくらいの年齢のとき。





小さい頃からもう術式を使いこなすために簡単な任務に行ってて、だから、ずっと屋敷にいた時とは比べ物にならないくらい人と関わった。







そうしていく内に、"仲がいい"の形って、必ずしも一つじゃないなって思ったの。





苗字で呼んだからって相手の名前を大切にしてないわけじゃないし、同じ名前の人が何人もいるのかもしれない。




単純に、苗字の方がしっくりくることだってあるし。






それでも──、







恵、君だけは名前で呼びたかった。







恵って名前が大好きだったし、恵のことも大好きだった。








だけど恵が中学三年に上がってから少し経った後、びっくりするくらい突然、彼は私の事を久我って呼んだ。







だから最初はちょっと意地張って、私も伏黒って呼んでやった。





それに呼び方なんて重要じゃないって、子供のときよりそう思えてたから。







そうやってるうちに、2人ともいつの間にか苗字呼びに慣れちゃって──、




確かに伏黒って苗字もかっこいいけど、そういう問題じゃない。








あーあ。








『…今度は指切りげんまんしてやろ』






私も恵って呼ぶから、





もう二度と、名字でなんて呼ばないでね。





✳︎

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す