7話 ページ9
朝食を済ませた後、電話をしていたペチュニアが困ったようにリビングに入ってきて、ハリーをひと睨みした。
「バーノン、大変よ。フィックおばさんが足を骨折して、この子を預かれないって……」
毎年ダドリーの誕生日にはテーマパークや遊園地などに出掛けるが、その時ハリーは変わり者のフィックおばさんに預けられていた。
しかし、ハリーはあそこが苦手だった。
猫が沢山いて、どこからともなく腐ったキャベツのような匂いがする。
問題は猫が沢山いることではなく間違いなくキャベツが原因なのだが、猫もそんなに何匹もいなくてもいいと思う。
そのフィックおばさんが、どうやら足を骨折してしまったらしい。
「どうします？」
「マージのところに預けたらどうかね」
「馬鹿なこと言わないで。マージはこの子を嫌っているのよ」
「僕をここに置いていったら」
話し合っていた2人の鋭い視線がハリーに一直線に突き刺さる。
気遣って言ったつもりだったが、口を挟んだのは失敗だったようだ。
気まずい空気に肩を竦めたハリーを、ペチュニアがじろりと見た。
「家に残って何をするつもり？帰って来たら家がバラバラになってるってわけ？」
「僕家を壊したりしないよ」
僕を化け物か何かかと思っているのだろうか。
ああ、うん、思っているんだった。
「動物園までは一緒に行ったらどうかしら……その後は車に残して行けば」
「だが新車だ。こいつを残していく訳にはいかん」
本当に僕が家を壊す気だったとして、もしそうなら家を壊されるより新車を諦めた方が良くないか？
もはやバーノンおじさんの思考は理解不能だ。
プレゼントに夢中だったダドリーがこちらの話に気がついて、ハリーがついてくるのが面白くないのかわんわん泣き出した。
ダドリーを抱きしめるペチュニアの腕の中からダドリーと目が合ってダドリーが意地悪く笑うのがしっかりと見えた。
「(ヘタな嘘泣き...)」
泣きたいのはこっちさ、とハリーは無意識のうちにまたきゅっと右手を握っていた。
ハリーを慰めてくれるのはもうこの右手に微かに残る温もりだけだった。
いや、もう温もりなんか残っていない。
それでも、彼女の存在も、彼女が紡いでくれたあの言葉も消えたりしない。
そのことを思い出すたび、ハリーの心は確かに温かくなるんだから、絶対、あれは幻なんかじゃなかった。
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作者名：とま | 作成日時：2022年1月31日 23時
