3話 ページ5
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「こんにち……は」
やっと喉から絞り出した声は、さっきまで意気込んでこれでもかとブランコをかき鳴らした男の子とは思えないほど弱々しい。
数メートルもない距離に座っている女の子にギリギリ届くか届かないかの声量が、今の少年の精一杯の全力だった。
しかし、少女にはしっかりと届いていたようだ。
少女は少年から返ってきた挨拶に満足げに笑って、今度は少年の方など見向きもせずにブランコを漕ぎ始めた。
ふわり、と甘い香りがした。
ブランコと共に揺れる少女の甘い香りは、少年をクラクラと惑わせる。
落ち着いてからよく見てみると、少女の服装は絵本の中で貴族のお嬢様が着ているようなドレスだった。
今時もう貴族なんていないことは分かってるけど、この子に「実はそうなの」と言われたら納得するくらい。
真っ白いスカートには目一杯フリルやリボンがついていて、上にはレースで編み込まれたボレロを羽織っている。
同じく白のソックスに、艶のある上質そうな皮の靴。いかにも"良家のご令嬢"ですと言うような佇まい。
その全てが、少女の造られたような美貌を更に際立たせていた。
この周辺では見たことがない子だ。というか、こんな子一度でも見ていたら誰もが忘れるはずがない。
一体どこの人なんだろう。とんでもなくいいとこのお嬢様だというのは聞くまでもないけれど。
少年の脳内はもはや完全にミステリーだ。しかしそんなことは知らない少女は楽しそうにブランコを漕ぎながら、テーマパークにでも来たかのように周りを見回している。
少年がその姿に見入っていると、少女が不意にこちらを向いた。
『ねえ、あれはなあに？』
予期せず少女の碧い瞳に射抜かれてしまって、やっとのことで落ち着きを取り戻し始めた心臓がまたしてもドキリと波打つ。
しかし、少女が指差す物を見てまた別に少年の思考が停止した。
少女がしっかりと指差す先は、外灯。
どこにでもある、家を出て数歩歩けば見つかるくらい至って普通の外灯だ。
少年も博識と呼べるほど知識は持っていない自覚があった。それにまだ10歳だ。
社会のことなどまだ何も知らないし、学校の中でも賢い方かと言われれば普通くらい。
それでも、どこにでもあるようなただの外灯をまるで初めて見たかのように話す少女があまりにも無知であるということは、少年にも想像に容易かった。
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作者名：とま | 作成日時：2022年1月31日 23時
