検索窓
今日:13 hit、昨日:32 hit、合計:25,817 hit

第三十一話 乾いた物語 巫兎視点 ページ34

穏やかな風が美女桜の花びらを散らす中、私は大きな竹林に来ていた。
風は少し冷たく、けれど、どこか優しさを感じられるそんな風でもあった。
あたりにはたくさんの墓石が静かに並んでいる。
その数の多さが、鬼と戦い続ける過酷さを物語っていた。
鬼殺隊に所属する多くの隊士は身内を失っている。
当然、家族と同じ墓に入れない者も多く、埋葬すらしてもらえない者もいたらしい。
それを心苦しく思った遠く昔の親方様が共同墓地を建ててくださったらしい。
今では隊士だけでなく、鬼に殺されたが埋葬先がない者も、一緒にこの地に眠っているようだ。
先日の那田蜘蛛山の任務で亡くなった隊士の多くはここに埋葬されており、
せめて墓参りだけでもと思い、私はここに来ることにした。

あの時、どうして私はあそこまで無慈悲だったのだろう。
目の前で、命が踏みにじられていったのに。
今でも思い出す。
仲間(・・)たちの叫び声を、呻き声を、泣き叫ぶ声を。
まるでつい先ほどのことのように、鮮明に、はっきりと。
脳裏にくっきりと思い浮かぶ。
なのに、どうして……何も込み上げてこないのだろう。
悲しみも、恐怖も、後悔さえも。
まるで、一つの物語を聞いている、そんな感じがしてしまう。
他人事のように、幻のように思えてしまう。
けれど、確かに仲間達は死んでいて、その時についた傷跡もあるのに。
……私はいつから、冷たい人間になってしまったのだろうか。

消化しきれない複雑な気持ちを胸に抱えたまま、
私はひたすら墓石に向かってお辞儀をした。
どうか安らかに眠って欲しい、ただそれだけを心の中で伝えながら、
静かに、亡くなった仲間の墓石に手を合わせ続けた。
全ての墓に手を合わせ終わったのは、ちょうど太陽が傾き始めた頃だった。

そろそろ戻らないと、胡蝶様に迷惑をかけてしまう。

帰ろうと腰を上げ、出口に向かうと、
そこには独特な羽織を着た見慣れた男性が立っていた。

「不死川さん? 」

そう声をかけると、男はゆっくりこちらを振り返り、
昔と変わらない仏頂面で話しかけてきた。





*作者より*
皆様、お久しぶりです。庵原です。
ここ数日更新できず申し訳ございません。
私生活が立て込んでいて、小説を書くほどの時間を取れなくなっておりました。
本日の更新は短いですが、キリが良いのでこれまでとさせて頂きます。
また二月十四日まで不定期更新になりそうです。
皆様には大変ご迷惑をお掛けしますが、何卒宜しくお願い致します。

第三十二話 供花の知らせ 不死川視点→←第三十話 機能回復訓練 巫兎視点



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (46 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
77人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

庵原史穂(プロフ) - 西村莉唯(りあ)さん» 西村莉唯様、温かいお言葉ありがとうございます。ご期待に添えるようこれからも精進して参りますのでよろしくお願い致します♪ (2022年3月6日 17時) (レス) id: 0038db6d5e (このIDを非表示/違反報告)
西村莉唯(りあ)(プロフ) - 更新したら私即見ます!なので頑張ってください! (2022年3月6日 16時) (レス) id: 929c6fdeb8 (このIDを非表示/違反報告)
庵原史穂(プロフ) - 夏美さん» ありがとうございます! (2022年2月19日 22時) (レス) id: 0d9f41f564 (このIDを非表示/違反報告)
夏美(プロフ) - 更新頑張ってください! (2022年2月19日 22時) (レス) id: 5adf9ec04a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:庵原史穂 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年12月22日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。