106 ページ10
唐突なゴミ箱のログインにぱかっと口を開けて固まっていた私は、奇跡を見た。
素晴らしい回転のかかったゴミ箱が綺麗に弧を描き、そのまま引き寄せられるようにジンの後頭部へとガンッッと直撃。
突然の衝撃に耐えきれず前のめりになるジン。
ウォッカ、キャンティ、ベルモットも思わずといった体で音鳴る方へ顔を向ける。
つまり––––––全員の視線が、私から逸れた。
(チャンスだ!?)
降って湧いた好機。黙っていられるはずがない。
私はゴミ箱を強制ログインさせた犯人を特定する間もなく、横道に逸れて全速で走り出した。
背後でキャンティの吠える声、ジンの怒号が聞こえる。
流石に立ち直りが早い。
すぐさまショットガンのポンプアクションのような音が耳に届いて、体がぶるりと震えた。
やばい。
撃たれる……?
「ッ、!?」
しかし、背後では息を飲むような音とともにガシャンッと地面に何かを落とす音が聞こえたのみで、何も仕掛けてくる様子がない。
何だ?得物の不備か?
それなら好都合だ、ちょっと出来過ぎな気もするけど!
運動の出来ない身での全力疾走。
太ももから血は流れてるし、素足は痛むし、散々だ。
そういえば私MI6に入ってたとか聞いたけど、それなのに何故こんなに体力が無いんだ?
組織を抜けてからぬくぬく過ごしてる間に体力落とした…?そんな、勿体ない…
とにかく若干涙目になりながら駆け、ようやく暗い路地に僅かな光が差し込み始める。
大通りが近いようだ。
でも、大通りに出てどうする?
私は何処へ逃げれば良いんだ……?
酸欠の頭で必死に考えながら、ようやく路地を出られる、といったところで背後から再び銃声が聞こえた。
まずい、追いつかれる。
「Aさんッ、早く!!」
ハッと顔を上げる。
今、確かにあの子の声がした。
「コナンくん……、?」
顔を上げた先で、スケボーを抱えたコナンくんがこちらに手を伸ばして叫んでいる。
そして、彼が片足を掛け乗り込んでいるのは……白いRX7。
安室さんの、車。
私は必死に駆け抜けてコナンくんの手を取った。
コナンくんは思いの外強い力で手をぐいと引き寄せ、私を車内に引っ張り込んだ。
体勢を崩しながらも無事に車に乗り込み、疲労に喘ぐ体に鞭打ち顔を上げる。
「–––––よく耐えきったな。」
運転席の安室さんはそう言うと、車を急発進させた。
2989人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しま | 作成日時:2018年5月8日 23時