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(コナン視点)
「そういえば昨日、米花公園で篠崎Aさんに会ったよ。」
俺はオレンジジュースをちびちびと飲みながら別の話題をぶん投げる。
これ以上この話を続けると今度はノロケが飛んできそうだ。
安室さんは俺が露骨に話題をすり替えたことに気づいた様子だったが、特に言及することなく「へえ、」と呟いた。
「そういえば最近見かけなかったな。」
「うん、二ヶ月くらいイギリスに旅行に行ってたんだって。」
「イギリスにねえ……」
顎に手を当てた安室さんが「メルローもイギリスに縁があったっけ」と呟いている。
何でもかんでもメルローに結びつけすぎじゃないかこの人。
「そういえば、結局彼女って何者なんだい?彼女、コナンくんとは素で話してたと思うんだけど。」
「何のこと?」
「今さらとぼけても無駄だよ…」
苦笑する安室さん。
俺は少し悩んだものの、そろそろ時効だよな、という思いからスマホを取り出し、操作しながら話す。
「Aさんね、今、安室さんと付き合ってた頃の記憶がほとんど無い状態みたいだよ。」
「……はっ?」
「ある日突然前世の記憶を思い出したらしいんだけど、その拍子に今世の記憶がゴリっと削れちゃったんだって。」
「…………え、いや、流石に嘘でしょう?」
ありのまま伝えると、案の定安室さんは全く信じてくれなかった。
俺は心の中でAさんに謝りながら最終兵器を取り出す。
「はいこれ。」
「何、……動画?」
・
「…………………………。」
「面白かった?」
俺の問いに答えることなく、安室さんはもう一度無言で動画を再生した。
再びスマホから愉快な声が流れてくる。
しばらく動画を反復して視聴した安室さんは、コトリとスマホをカウンターに置いて頬杖をついた。
「別人じゃないの?」
おっしゃる通りですよね。
「本人です。ちなみに徐々に記憶は取り戻してるみたいだけど、あくまで今の主人格は前世の頃のまともなやつらしいよ。」
「そっか……なんていうか、その、大変だったんだね。」
「安室さんもね。」
一応どうにか信じてもらえらしい。
これで信じてもらえなかったらAさんはただ恥を晒しただけで終わるところだった。
安室さんは懲りずにまた動画を再生させ、頬杖をついたままポツリと呟く。
「彼女、声だけはメルローに似てた気がするんだよね…」
……。
この男、重症なのではなかろうか。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時