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私の渾身の挑発をノリノリで受け止めた安室さんに、戦慄を禁じ得ない。
まさか……ここまでとは…………
既にHP0な私に対して、安室さんはこの余裕の笑みである。
張り倒したい。
でもどうしよう…
調子に乗って挑発した手前「アッやっぱ結構です」なんて言った暁には私は完全に負け犬だ。
私のなけなしのプライドが、それだけは嫌だと叫んでいる。
他に何か、何か手はないか!
そのとき、焦る私の耳に深みのある重低音が響いた。
「こらこら安室くん。その手を離しなさい。」
聞き馴染みのあるその声がする方へ、ハッとして視線を向ける。
そこには鈴木会長との話を終えたらしい父がいた。
その顔には静かな微笑みが浮かんでいる。
(救世主……!)
安室さんは父を肩越しに確認すると、私の腰に回していたその腕をするりと解く。
そして最後に、頬に触れていた指がいたずらに私の首筋をすぅっと撫でてから離れていった。
父の登場と、解放された体に安堵していた私は、その意地の悪い不意打ちに思わず「っ、」と吐息を漏らす。
私の反応を見届けた安室さんは、ゆるく笑ってから私に背を向けた。
ハニトラ熟練者かよ安室透……恐ろしい男だな……
「申し訳ありません。Aさんの色香に当てられてしまいました。」
「ハハ、ならば責めることなどできないね。僕の娘の美貌の前では、どんな輝きを持つ宝石とて霞んでしまう。」
「おっしゃる通りですね。」
「マアーーーお上手デスコトォ」
軽くヨイショされてる気がしないでもないがもうどうでも良い。
早く私をおうちに帰らせてください…
・
私の誉め殺し大会を終えた2人は、二、三言葉を交わしてようやく別れた。
よくもまあそんなにも口が回るな、と皮肉を言いたくなるほど長かった。
2人とも鬼メンタル持ちかな?
バルコニーから立ち去る直前、安室さんは「そうだ」と思い出したように立ち止まる。
「お二人にお聞きしたいことが。」
今度は…今度はなんだ…!
「フェリス・ナッシュという人物をご存知ですか?」
?
「…………さあ。聞いたことがない。」
「私もですわ。外国の方のようですけれど……」
私たち親子の返答を受けた安室さんは、私たちの目をそれぞれ見つめた後、「そうですか」と言って笑った。
何だったんだ?
ただ、安室さんが立ち去った後で見た父の横顔が、今までにないほど険しかったことが気になった。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月22日 16時