花火大会 二 ページ43
任務では先輩に助けられた事もあったし、庵先輩みたくからかわれまくった訳でもなかった。
たまに、いや稀に、優しいなと思った事もあった。
花火の開始時刻に向けて、人が増えてきた。
どんどん場所を埋まっていく。
狭くて人が密集する道を、押しのけるように歩いた。
「A、人混みにつぶれそーだね」
生意気な声が、私の頭の中で響いた。
あぁ、そう言えば。
この花火大会に、私は先輩と来たことがある。
苦手だった先輩と唯一、二人きりで過ごした日。
それからは、悠仁の件で関わるまでずっと、二人きりで出かけることはなかったと思う。
あれは、一つ上の先輩達と私で、ファミレスでぐだった日だった。
先輩が彼女の誘いを断ったあの日は、花火大会当日だった。
他愛もない話をしているとあっという間に夜は更けていって、夏油先輩と硝子先輩は先に帰って行った。
私と五条先輩の、二人きり。
夏油先輩達と一緒に、私達も解散しても良かったんだろうけど、あの時何で二人でダラダラ居座ってたのかは、もうよく覚えてない。
店から出て二人で歩いていると、急に話題が無くなってしまった。
ファミレスにいた時は、気負わず喋れていたのに。
気まずさを感じながら、二人で歩く。
「あ、屋台出てるー!」
帰り道は、今日行われる花火会場の近くだった。
かき氷やらたこ焼きやら、屋台がたくさん出ていた。
「おー!かき氷食おう!」
ふらっと会場に寄って、颯爽とかき氷を買う先輩。
「Aー、ほら来いよー」
先輩が、私に向かって手招きした。
抱えたかき氷は、ちゃんと二つあった。
「せっかくだから、花火鑑賞していこーぜ」
「いや、先輩、ちょっと待って」
つかつかと先輩に歩み寄る。
手からかき氷は奪っておいた。
奢ってくれるんだから、有り難く頂戴しておこう。
「何?早く行こうよ」
何の悪気もない顔で、言ってのける先輩。
「まずいでしょ、先輩。さっきこの花火大会、彼女に誘われて断ってたじゃないですか。」
こんな場面、彼女さんに見られようもんなら、厄介な事になる。
先輩は、は?という顔で私を見た。
「何言ってんの。大丈夫っしょ。Aは後輩なんだから。」
あっさり言われると、何だか微妙な気持ちになる。
後輩だけど、女でもあるんだけど。
かき氷を食べながら、ふらふらと会場に向かう先輩。
彼の背中を見ながら、ため息をついた。
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しゃっと(プロフ) - 猫人形 元猫耳アヤツリ人形 (°∀° )さん» いつもコメントありがとうございます(T_T)私が書くと、まわりくどくてあんま甘くない話になるんですが(--;)猫人形さんのコメントに私も癒されまくりました!!今の作品ものんびり更新でしたが・・・頑張る気がわいてきました!! (2021年4月18日 21時) (レス) id: 79cfbcfb05 (このIDを非表示/違反報告)
猫人形 元猫耳アヤツリ人形 (°∀° )(プロフ) - 完結!お疲れ様です〜柔らかい優しさと切なさを兼ね備えていてとても良かったです…忙しくて開けていなかったのですが最後まで読めて心満たされました、、ありがとうございます( ; ; ) (2021年4月18日 9時) (レス) id: d8d7cfe01e (このIDを非表示/違反報告)
猫人形 元猫耳アヤツリ人形 (°∀° )(プロフ) - しゃっとさん» 前作の近くて遠い。も読ませて頂きました!そちらもまた良かったです..はい!更新楽しみに待っています^ - ^ (2021年2月15日 23時) (レス) id: d4943c1156 (このIDを非表示/違反報告)
しゃっと(プロフ) - 猫人形 元猫耳アヤツリ人形 (°∀° )さん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます!季節外れなお話ですが頑張って書きますのでまた見にきてください^^ (2021年2月13日 23時) (レス) id: 79cfbcfb05 (このIDを非表示/違反報告)
猫人形 元猫耳アヤツリ人形 (°∀° )(プロフ) - めちゃくちゃ良かったです!言葉選びとか凄く好みです…! (2021年2月12日 0時) (レス) id: d4943c1156 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゃっと | 作成日時:2021年1月6日 18時