夏夜の幻想【五条悟】

夏祭りと禁断の果実 五 ページ32

何とか二人と合流できたが、激しく空気が悪い。

五条さんはムスッとしてるし、私は変な場面を見られて気恥ずかしいし、そんな空気にもどこ吹く風な建人。

「じゃあ、私は焼きそば買ってくるんで」


空気も読まず、さっさと露店の並ぶ方へと歩いて行ってしまう。

え、1人で行っちゃう？
皆で行くとか、せめて私も連れて行って！

建人の背中に目で訴えかけてみるが、無駄だった。



屋台から外れた、腰掛けられる石畳で、二人で無言で座った。



ふいに、五条さんが上着を脱いで、石畳の上にふわっとその服をかける。

何をするんだろうと、横目で眺めていると。


「A、ちょっとそこに正座しなさい」

「·····は？」

「僕の服の上で、正座」


五条さんは、胡座をかいている。

空気に押されて仕方なく、先輩に対面する形で彼の服の上に乗り、正座した。


「何で正座か、分かる？」

「いえ、全く」


胡座をかいて腕を組む彼を、ちらりと見上げる。


「悪いことして反省する時は正座でしょ」


当然のように言う五条さん。


「私、悪いこと·····しました？」

「した。僕は先輩として、悲しい。Aは隙がありすぎる」


何、これ。

お説教タイムなの？


「Aなら、あんな男ぐらい投げたりぶっとばしたりできたでしょ」

「一般人に手出したら、ダメじゃないですか」

「それでも、逃げれたでしょ。何でされるがままに許してるわけ？」


確かに、いつもの私なら絶対逃げてる、けど。

最近五条さんとの関係に悩んで、寂しくて、少し自暴自棄になってたなんて。

とても、本人には言えない。


軽率だったとは思うからそう言われると恥ずかしい。

だけど。

そもそもこの人に何か言われる筋合いはないはずだ。


「最初はりんご飴くれたし。良い人だったんですよ」

「知らない人から食べ物もらわないの！」


軽く反撃してみたが、ぴしゃりと子どもみたいに叱られた。


「結局、りんご飴だけじゃ済まなかったじゃん。あんな絡まれて」


突っ込まれる。

それは確かにそうだ。


「私も初めは気のいいお兄ちゃんで、体目的だとは思ってなかったから·····」


言いかけていると、五条さんが目を剥いた。


「はぁ？何それ。そんなこと言われたの？」


明らかに、声のトーンが下がる。


やばい、余計なこと言った。

やぶ蛇だ。

あいつ、本当に蛇男だった。

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