夏夜の幻想【五条悟】

ビアガーデン 四 ページ27

一人で落ち込んで負のスパイラルにハマりはじめた私に、バーテンダーが苦笑した。

「上手くいかない恋もありますよ」

サービスです、と軽いおつまみを出してくれる。

この人は優しさのつもりなんだろうが、何だか悲しい。

初対面の人に、叶わない恋だと決めつけられている。


でも、色々知らない一般人から客観的に見ても、不釣り合いに見えるのか。



へこみながらビールを飲んでいると、バーテンダーがあれ、と呆気にとられた表情をした。

「あ、囲んでいた女の子達ひいていきますよ、ってあれ？消えた？」

彼の声につられて後ろを見ると、テントに座る七海と、バーテンダーと同じく呆気にとられた表情の逆ナン女子達。


五条さんが、いない。


「あれ？」

私も声を上げた。


その時。

後ろに気を取られている私の肩をそっと抱き寄せる手があった。
その誰かの体に、ぶつかってしまう。


「A、全然帰ってこないから迎えにきちゃった」

耳元で囁く声がする。

見上げれば、五条さんがにっこり微笑んでいた。

「さっきまで後ろいたのに·····」

急に隣に来られて、肩を抱き寄せられ、気付けば五条さんの体に寄りかかる形になっている。


「そろそろテント戻ろうか。今日は僕と飲みに来たんでしょ？」

耳の近くで、でも周りには聞こえるようにはっきりと、五条さんが話す。

「女の子たちはいいんですか？」

つい、口に出してしまうと、五条さんは笑った。

バーカウンターのテーブルの頬杖をつき、私の鼻を長い指先でつんとつついた。

「僕が興味あるのは、Aだからね」

何それ。
期待しちゃうじゃん。

顔が赤くなりながらも、少し両頬をふくらませると、今度は頬をつんとつつかれた。




七海はテントの中でゆっくりビールを飲んだ。

女子達に群がられていた白髪の長身の男は、気付けばもうAの隣にいる。

Aと話していたバーテンダーは、五条さんを前にすっかり萎縮している。

何せ、あの長身で眉目秀麗だ、よく目立つ。

あっさり断って瞬間で消えた五条さんが親しげに絡むAに対し、先程の女子達からは嫉妬と羨望の眼差しがキツく浴びせられている。


二人か話しているのをぼんやりと眺める。

Aに話しかける五条さんの顔は、七海が見たことないほど優しく柔和なものだった。




「Aが思い悩むほど面倒じゃないと思いますけどねぇ、お互いもうバレバレですし」

ビールを飲んだ。

グラスの中の黄金色が、輝いていた。

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