夏夜の幻想【五条悟】

微熱 前編 ページ19

今日の悠仁は、修行はお休み。
うちに招いて、一緒にゴロゴロしていた。

漫画を読む悠仁とスマホをだらだら見る私。

窓の外には真っ青な空に、白い入道雲。
青い背景に、飛行機雲が伸びていく。



最近の私は、おかしい。
気付けばぼんやりとしているし、食欲もない。

原因は分かってる。

五条さんだ。

この前花火をした時、五条さんが気になっている自分に気づいてしまった。

自覚し始めた途端、恋は始まる。


悠仁がきっかけで、最近よく会うようにはなった。
元々は高専からの先輩だから、付き合いは長いけど。

普段は何してるんだろう、とか。
彼女や好きな人、いるのかな、とか。

そんな事は何も知らなくて、ついつい考えてしまう。
聞く勇気も出ないくせに。


「Aさん、Aさんってば」


気付けば、悠仁が私をずっと呼んでいた。
心配そうな顔で覗き込まれる。

「ん、何？」

「大丈夫？なんか最近ずっとぼーっとしてるよ」

悠仁に心配される程とは。


「最近暑いからさ、体ダルいんだよね。夏バテかも」

笑いながら誤魔化しつつ、問い返す。

「どうしたの、何か用事？」

「いや、飲み物入れてこようと思って。Aさんもいる？」

ありがとう、と言おうとしてふと考え直す。
このまま家いてもグダグダ何か考えそうだし。

「ちょっとお散歩がてらコンビニ行ってくるよ。悠仁、ジュースとかアイスいる？」

彼は、やったー！と顔を輝かせて万歳した。




しかし、暑い。
昼間のこの時間の暑さは凄まじい。

コンビニで色々買って、店の外に出た途端、アスファルトからの熱気がむんむんと私を襲う。

「あちー·····」

買ったアイスを取り出し、パクッと頬張る。
早く帰らないと、悠仁に買ったアイスも溶けてしまいそうだ。


「あ！」

思わず弾んだ声が出た。

向こうに見える見覚えのあるシルエット。
この真夏に真っ黒の服、白い髪の長身。

五条さんだ。


偶然会えるなんて。
すごい。
嬉しくなって、駆け寄って声をかけようとした。

が、すぐに私の足はとまった。

五条さんのすぐ側には、女の人がいた。
私より先に、彼に声をかける。


すごく綺麗な女の人だ。スタイルも良い。


「誰だろ·····」


蝉の声が、頭に響いた。

それ以外の雑音は全て、世界から遮断されたみたいに、蝉の声だけが五月蝿く響く。

暑い。
暑いのに動けない。
足が蝋人形みたいに固まってる。

五条さんと女の人は、そのまま一緒に歩いて行ってしまう。

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