夏夜の幻想【五条悟】

線香花火 中編 ページ17

苦手で距離を置いていた五条先輩が、教師を始めた時は驚いたし、大丈夫なのかと心配した。

去年の百鬼夜行の後だって、そうだ。



パチパチと、赤い玉が火花を散らす。

気になりながら、私は側にいるような関係じゃなかった。
だから、遠巻きに先輩を見てただけ。

でも、そんな私の心配は杞憂だったみたいだ。

先輩は、先輩が思う「仲間」を必死で教育しようとしている。

ただ軽薄でマイペースな人だと思ってた。

その中にある信念や優しさに、私は今まで全然気づかなかったのだ。



赤い玉の火花が、終息を迎えようとしている。
パチッと小刻みに爆ぜた。


2人は、相変わらず花火を振り回して走っている。

「本当に、あの頃に戻ったみたい」

呟いて、笑った。

こんなふうに仲間たちで、花火をしたあの夜。

まだ、皆が存在していて、この先に何が起こるかなんて想像もしてなかった、あの頃。



「Aさん、こっちででっかい花火しようよ！」

悠仁が手招きした。

後ろで、五条さんも笑っている。

高専の時みたいな不敵な笑みではない。

少年らしさは残しつつもどこか憂いのある笑顔に、思わず見とれた。

胸が、高鳴る。






悠仁がつけた、吹き出し花火を眺めた。
空高く、火花がほとばしる。


ふと、近くに五条さんが来た。
低い声で耳元で囁かれる。

「A、ありがとう。付き合ってくれて」


「何言ってるんですか。普通に楽しんでますけど」

ムキになれば、笑われた。



付き合ってくれて、って何だろう。

先輩の言い方に、なぜか距離を感じた。

こんな事でお礼なんか言わなくていいのに。

最初は確かに頼まれたけど、今は悠仁がまるで年の離れた弟みたいな存在になっている。


私にも、一緒に背負わせてほしいのに。

焦燥感とイライラが募る。

例えば、もっと近付けたら。
彼ももっと気を許してくれるんだろうか。

私だって、もっと。


いや、何で私こんなイライラしてんの。
もっと、って何を期待してるんだろう。

考えていたら、五条さんに声をかけられた。

「怒ってんの？」

「怒ってません」

「いや、なんか怒ってるじゃん、何で？」

私だって何で怒ってるのか分かんないのに、聞かないで欲しい。
自分が小さく感じて、余計イライラする。


「知りませんってば」

ぷいっと横を向いて視線を逸らせば、えー？と拗ねたように軽く彼が言う。

ちょっと切り替えよう。

悠仁のもとに行こうとした私は、背後からぐいっと腕を引っ張られた。

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