2年前のあの日2 ページ5
日差しが傾いていく。
先程まで騒がしかった部屋も今は私1人きり。
同僚達は皆出払ってしまった。
普段ならやる気をなくすとこだけど、今の私には好都合。
集中して作業を進めるうちに終わりも見えてきた。
これなら待ち合わせにも間に合いそう。
·····のはずだったんだけど。
「A〜きたよ〜」
「呼んでないけど」
口端をあげて笑う悟の顔を見上げて、すぐにPCに顔を戻す。
「冷たいねぇ。」
彼は含み笑いしながら、隣の席のキャスター付きの椅子に座り、私の背後にまわる。
片腕を私の椅子の背面を抱くように這わせる。
もう片腕の先には、資料の束。私の目の前で振ってみせる。
「この教材、今度使おうと思うんだけど、一部謎なところがあってさ。一緒に調べてほしいんだ。」
教材って。なんか教師らしいことしてる。
「どのへんが謎なの？」
「ここ。ほら、こう書いてるけどさ、こっちはこうで、ほら辻褄合わないだろ？」
「あぁー確かに。」
早速PCにキーワードを打ち込み、検索をかける。
「うーん、ないなぁ·····。これも違うよね？」
スクロールやクリックを繰り返す。
私の椅子を背後から抱くように抱える悟の顔は、私の左肩の上にある。
距離が近いのは慣れっこだけど、今はなんだか気まずい。
検索画面をスクロールしていたら。
「あ、A待って。これ。」
悟の手がマウスを持つ私の手に、自然に重なる。
大きな手に、私の手は完全に隠れてしまう。
私の人差し指を、悟の長い指がそっと押す。
「これ、近いね。この画像とか良いなぁ。他にこんな画像ない？文献とか。」
「·····そーね、探してみよっか。」
「え！Aさん彼氏できたんすか！？ついに付き合ったんすね！？五条さんと！？」
「だってあの五条さんが、Aさんに対してはすっげぇ優しいじゃないっすか。」
Aの声が木霊する。
そんなの、一番私が思ってた。
でも実らなかったんだもん。
仕方ないじゃない。
近い距離で優しい癖に、それ以上近づいて来ない悟。
傑のこともあった。
悟の傷つきも少しは知ってるつもりだ。
だから、この関係でも不満はなかった。
だけど。
好きなのに報われない。それに辛さを感じるようになってしまった。
何回か、それとなく好意を伝えてみたことはある。
どれも空振りだった。さりげなくかわされた。
それでも、私を遠ざけもせず、すぐ手が届きそうな距離にいる悟。
辛くなるばかりだった。
どうすれば良かったんだろう。
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しゃっと(プロフ) - しぃぷさん» コメントありがとうございます！自己満だなぁと思いながら書いてたので、こんな褒めてもらえるなんて…！嬉しすぎます。ありがとうございます！また新しいお話もがんばるので、そちらにもぜひお越しください〜。 (2021年2月4日 23時) (
レス) id: 79cfbcfb05 (このIDを非表示/違反報告)
しぃぷ(プロフ) - いや、マジで天才かと思いました。めっちゃ好き過ぎる……話の構成も流れも最高です！！完結おめでとうございます！新作が出たら1番に応援しに行きますね！素敵な作品を有難う御座います！！ (2021年2月2日 13時) (レス) id: c3f6824249 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゃっと | 作成日時：2020年12月5日 14時
