1年前のあの日4 ページ24
「私ってすごく性格悪い女なの」
冷たさが少し残るビールを口をつけながら、言う。
「何ですか、急に」
スマホを見ていた七海がこちらに視線を移す。
グラサン越しでも、目を細めてるのが分かる。
「振られて、ショックとか諦めきれないとかそんなんじゃないの。後悔してるけど、ちょっと安心してる」
彼にあんな事言わせてしまった。
嫌いじゃなかったのに。
この一年、ずっと無意識に傷つけてきたんだろう、という後悔。
それなのに安心してしまったのは、ずっとあの日の自分に嘘をつき続けていた気がしたから。
あの髪飾りをつけてもらった時、動揺して、呪いをかけられたみたいに動けなくなってしまった事。
本当は、資料を持って出ていく悟を、追いかけたくてたまらなかった事。
何回好意を仄めかしても上手くいかなかった癖に、それを棚に上げて考えてる自分に感心してしまう。
何度あの日を思い出しただろう。
あの時、立ち上がって声をかけたら。
悟の背中を追いかけたら。
出ていこうとする悟を引きとめてたら。
彼ができても、やっぱりつかず離れず悟が側にいると、切り替えることなんてできなかった。
この一年、ずっと。
悟への気持ちを捨てられないまま、彼氏に笑顔を向ける自分が苦しかった。
でも、自分からは別れなんか切りだせなくて。
彼が別れを切り出してくれて、これで自分に嘘をつかなくていい、と安心してる。
ほんと最低。
振られて当然だ。
後輩の前でとか、お店の中だからとか、誤魔化す余裕もなく、気付いたら涙が頬を伝っていた。
ぽたぽたと、水滴が机に落ちていく。
激しい自己嫌悪が渦巻く。
その癖、泣いてる自分が余計情けなくて、さらに嫌悪が募る。
七海がポケットからハンカチを取り出そうとしたのを途中でやめ、手元にあったおしぼりを渡してきた。
「扱いが雑·····」
鼻をすすりながら、七海を睨む。
彼は苦笑混じりにため息をついた。
「いちいち、細かいことを気にしすぎなんですよ、あなたは。」
七海が、ぽんっと頭を軽く撫でる。
悟とは違う撫で方。
でもすごく安心する。
「自分の感情に、素直に向き合ったらどうですか」
ちゃんと話してなくても、見透かされてるみたいだ。
大分私に甘いと思うけど、欲しい言葉をかけてくれる。
流石だな。元サラリーマン。
七海の言葉を聞きながら、頭を撫でるリズムの心地良さに、また涙が溢れた。
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しゃっと(プロフ) - しぃぷさん» コメントありがとうございます！自己満だなぁと思いながら書いてたので、こんな褒めてもらえるなんて…！嬉しすぎます。ありがとうございます！また新しいお話もがんばるので、そちらにもぜひお越しください〜。 (2021年2月4日 23時) (
レス) id: 79cfbcfb05 (このIDを非表示/違反報告)
しぃぷ(プロフ) - いや、マジで天才かと思いました。めっちゃ好き過ぎる……話の構成も流れも最高です！！完結おめでとうございます！新作が出たら1番に応援しに行きますね！素敵な作品を有難う御座います！！ (2021年2月2日 13時) (レス) id: c3f6824249 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゃっと | 作成日時：2020年12月5日 14時
