【短編集】終わりと始まり【2j3j】

聖夜なんてない　|segs ページ6

誰も待ってない空港を出て東京の街に出る。


「…せっかく帰ってきたのに」


仕事の休暇をもらったので日本に帰ってきたが、彼氏の明那に忙しいから迎えに行けない、ごめん。先に家あがってていいよと言われた。


仕方ない、仕事あるし休暇取れたって連絡したの急だったもんね。これなくて当たり前だよね。そう考えて寂しさを打ち消す。


しかし目の前に広がるのは赤と緑を基調とした、いわゆるクリスマスの装飾がされた街。
いやでもカップルたちが目に入ってしまう。


「…もうクリスマスか」


それなら尚更早く会いたい。明那の家に向かう足が弾む。


クリスマスだって特別なことしなくても、遠距離恋愛してる私たちは会えるだけで嬉しいのだ。
明那にこの前あったこと、何から話そうかな、とわくわくして歩いていた。



なのに、なのに。


信じられない光景を見てしまった。


明那と、知らない女の人。ショッピングバッグを持って2人で楽しそうに話しながら歩いているのを。
間違えるはずがない、赤メッシュ。



「…え」



動揺はしたものの冷静だったと思う。遠距離恋愛なら冷めても仕方ない、ってわかっていたから。
それでもやっぱり自分は明那が好きってことには変わりなくて。苦しくて、泣いてしまう。


そうだよね、私なんて全然会えない上に電話だって時差あるからそう頻繁に出来ないし、そりゃあ冷めるよね。だけど明那は優しいから、別れようなんて言わなかったんだ。私の気持ちを汲み取ってくれてたんだね。


そしてたくさん考えた結果、



"今までありがとう、別れよ、明那"



そう打っていた。


明那があの人といて幸せなら、それでいい。これ以上付き合っていても私が苦しくなるだけ。だから、もうここで終止符を打たなくちゃ。



え、待ってどうして？とメッセージがくるのを見たが返信はしなかった。
だって、わかってるよね？これを送った理由。もう、私は明那の1番じゃないでしょう？


だから、だからもう、お別れだよ、ずっと好きだったよ、明那。幸せになってね。


そう思って明那の家と反対に歩き出す。だけど行く当てなんてあるはずもなく。路地の隅にしゃがんで泣いた。
その横をカップルたちが通り過ぎていく。



「…さむいよ、あっためてよ、まだ好きって言ってよ、…っ」



誰も反応するはずない言葉が虚しく響く。



それは、いつのまにか降り出した雪と共に溶けていく。



あぁ、私の想いも一緒に溶けてしまえばいいのに。

聖夜はきっとある　|segs→←No.1 |fw

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す