155 ページ8
背の高い彼はその場で立ち止まって、私に「ありがとな」と簡潔にお礼を言った。私はそれに小さく会釈して日向くんへ駆け寄る。特に怪我などはしていなさそうで、本当にただの迷子のようだった。ほっとする。
私と入れ違いになるように金髪の人がすっと立ち上がり「またね」と言って去っていく。日向くんは「またね」に違和感を覚えていたようだが、すぐに私に向き直ってハッとした。
「ごめん！探しに来てくれた！？」
「うん、そう……げ、元気なのは、いいけれど、迷子にならないようにしようね」
とりあえず体育館に戻ろう、と私は日向くんに呼びかける。謝るのは私にでは無くコーチにしておいた方がいい。きっと怒鳴られると思うから。
「迷ったら、結果的に影山くんに負けちゃうよ」
「そっ、それは嫌だ！」
「でしょう。だから、気をつけよう」
彼とお話しながら来た道を戻る。相変わらず素直だし、色んな話を振ってくれるから有難い。話しながら歩いているからか、彼はふらふらとどこかへ行ったりはせず、きちんと私の隣をキープしてついてきてくれた。
先に先生方に連絡しておいた方がいいのかもしれない。と思ったが、そういえばゴミ捨てのついでのようなものだったから、携帯は持ってきていないのだった。そもそも地図を見るためにあるものではない。携帯しなければ意味が無いのだ。昨日あんなことがあったのだから、私も私で反省しなければ。
「？どうしたの？」
「え？」
「なんか難しい顔してたよ」
「あ、う、うん。私も反省しなきゃなって……携帯、忘れてきちゃったから」
「あー。でもまあ、今は俺がいるから！大丈夫！」
胸を張って私に堂々と言う彼に、少し驚いた。そんなに自信満々に言うのか、ということや、迷子になった子が何を言っているんだ、ということも言いたかったけれど、安心感が勝った。
「……うん、ありがとう。怒られそうになったら、庇ってあげるね」
「ウッ、や、やっぱ、怒られるかな？」
「う、うーん、どうだろう……」
子犬のような目に、そうだね、とは言えなかった。
私達が合宿所につくと、その後ろから皆さんが戻ってきた。どうやら他の部員総出で日向くんを探していたらしい。すっかり大事だ。
「お、お疲れ様です」
「ありがとう……神風さんもお疲れ様」
縁下先輩が疲れきった顔をして私に微笑んだ。日向くんを探す間に何があったんだろうと気になったが、彼の傷口を抉る羽目になったら大変だ。私は大人しくしておいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 50人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ReG | 作成日時：2022年2月22日 21時
