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調子を取り戻した田中先輩と裏腹に、影山くんのトスが焦りだしたように見える。手札が揃ったが故の、中学の時の再来だった。一人でしようとする癖は、どうやらまだ抜けきっていなかったらしい。
だから、彼は下げられた。悔しそうな顔の影山くんを少し心配していたが、日向くんとの会話で多少いつも通りに戻ったのを見てほっとする。日向くんがいて良かったと何回目か分からない感謝をした。
代わりにと菅原先輩が入ると、途端に烏野が堅実で誠実なプレーに早変わりする。コーチが言っていた「指揮者」という例えを、今ようやく体感した。やっぱり先輩は凄い。
三連続得点で追い上げるが、その後着実に青城に巻き返される。ただ、完全にノーマークだった菅原先輩が入ったことで、確実に青城は混乱している。何回か日向くんの速攻を神業速攻と勘違いしていたし、影山くんとのギャップとして今後も恐らく使える戦法だ。
惜しくも第一セットを落とし、第二セットに入る。影山くんはまだ下がったまま、菅原先輩がコートに入った。コーチから見て、彼はもう少し冷静にした方がいいのだろう。私も同意見だ。
「菅原先輩は危うげないな……」
「……あっ!?マネちゃん!?」
「はうっ!?」
ぽつりと呟くと隣から声をかけられて、びくっと思わず飛び上がる。急いで隣を見ると、昨日も来てくださっていたOBの方々が目を丸くして私を見ていた。私がいるのに全く気が付かなかったらしい。私もコートばかり見て全く気が付かなかった。
「こ、こん、こんにちはっお、お疲れ様、です」
「あっこんにちは……ごめんないきなり」
「静かな子がいるなとしか思わなかった……」
「き、気が付かず、すいません……」
「いや全然!むしろこっちがごめんな!」
わたわたとお互い謝り倒していると、あっと声が上がる。それに釣られてコートを見ると、及川さんのサーブだった。それに対して烏野は、
「おっ」
「んっ!?」
「……サーブレシーブ、二人体制……」
澤村先輩と西谷先輩の守備範囲をそれぞれ広くして、確実に及川さんのレシーブを取ろうとする体制だった。練習では見たことがないが、大人数で取るより特別レシーブが上手な二人に任せることにしたのだろう。
ぶっつけ本番といった作戦だったが、及川さんの強烈なサーブは一本で切る事ができた。田中先輩が勢いにのってブロックを打ち抜いた。このまま流れに乗ってほしい、とぐっと手を握った。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年2月22日 21時