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「影山くん、お疲れ様」
「おう」
「気持ちが早るのは分かるけれど、睨まないよ。目つき、いつもより悪いよ」
「あ？」
「ほら、落ち着いて」
ぐりんと彼が私を見下ろすので、目を合わせてどうどう、と声をかける。何故かこれで彼は落ち着くのだ。謎である。
彼との付き合いは案外長いのだが、未だに影山くんは謎に包まれている。私が科学者なら人体解剖をしている可能性まである。解剖したところで彼のことが分かるわけではないけれど。
「影山くん、楽しかった？」
「……まあ」
「そう、良かったね。私も、見てて楽しかった」
かすかに口角が上がったが、すぐに試合に負けた悔しさでむっと結ばれてしまった。練習試合であっても何であっても負けたくないという闘争心があるのはいい事だ。そのせいで日向くんとよく小さな喧嘩をするけれど。
少し肩が緩んだように見えたので、とりあえず孤爪さんが困らないようにしないと駄目だよ、というようなことを伝える。
自慢ではないが、彼は私の言うことをよく聞いてくれる。だから今回も素直に分かった、と頷いてくれた。相変わらず素直な人だ。いい子だね、と頭を撫でる。少ししてから優しく払いのけられた。
「子供扱いすんな」
「しているつもりはないけれど、気に障ったのならもうしないね」
「は……いや、そこまでじゃ、ねえ」
「そう？良かった。許してくれる？」
ゆっくりと頷かれる。こういうところを見ると、彼はやっぱり末っ子なのだなと思ってしまう。口下手だけど、ちょっとだけ甘えん坊さんだ。
「影山くん、頭撫でてもらって嬉しそうですねー？」
「あ！？うるせえ！ぶん殴るぞ！」
「あ、こら、日向くん、煽らないの。影山くんも、手は出しちゃ駄目でしょう」
逃げようとする日向くんの手を掴み、手を振りあげた影山くんの手を掴みながら注意する。すぐに彼らは私を振り返って、渋々手から力を抜いた。聞き分けが良くてよろしい。
「猛獣使いか？」
「凄い子だなあ」
「そう、凄いんだよ、うちのマネは」
「す、すいません、恥ずかしいので、やめてください……」
先輩方にからかわれながらも、とにかく片付けは終わった。体育館から出てにこにこと笑顔で握手をする主将二人に少し怖さを覚えつつ、音駒の皆さんを見送る。
芝山くんが振り返り、私を見て手を振るので、私も小さくそれに返した。物腰柔らかで優しい人だったから、またお話できたらいいな、と思った。
次は、全国の舞台で。
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作者名：ReG | 作成日時：2022年2月22日 21時
