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「俺達は血液だ。滞りなく流れろ、酸素を回せ。脳が正常に働くために。行くぞ」
「あス！」
ぽかん、としながら円陣を見てしまった。何だ今のは？
凄い口上を考えるのだな、と半ば関心しつつ、試合が始まる前にドリンクの準備をしようと移動する。
「ん？どうした？」
「へうっ！？」
「あ、すまんな」
飛び上がった私の後ろから申し訳なさそうな声が聞こえたので、わざとでは無さそうだとすぐに振り向いた。直井コーチは不思議そうに私を見た。
「ドリンクか？早いな」
「あ、は、はい。わ、私、非力な方なので……早めに準備するように、してるんです」
そうでなくても早めに作っておきたい。私だって彼らの試合を見たいのだ。なんて言ったって「ゴミ捨て場の決戦」なのだから。
直井コーチは感動したように「すまんが頼んだぞ」と私の背を押した。私も期待には沿いたいので、頷いて水道へと向かう。
相変わらず私からしたら荷物は重かったが、いつものように二往復せずに済んだ。というのも、最小限のメンバーしか来ていないらしく、音駒の選手は烏野の選手より少ないのだ。量が少ない分一往復で済んだのである。
帰ってくるとちょうどタイムアウトの時間だった。急いで駆け寄ると、ベンチにいた人が慌てたように手伝ってくれる。
「あ、ありがとう、ございます」
「いえ！やっぱり僕達も手伝いますよ？」
「せ、選手の方に、手伝ってもらうのは、ちょっと……」
気遣いは嬉しいが、外から見るだけでも学べることはあるだろうから、わざわざその機会をマネージャーのお手伝いに費やす必要はないのだ。見て学べることは少ないだろうけれど、存在はするのだから。
そう言うと、彼は目を丸くした。ぱちぱちと大きな目を瞬かせる。
「……不思議な人ですね」
「そ、うですかね……？」
「でも、嬉しいです」
にこ、と彼は屈託もなく笑った。彼の名前は芝山くんと言うそうだ。私の名前は彼には伝えていない。というか、伝える前に監督さんの言葉に遮られたのだ。
「ありゃあ、駄目だ」
ぴく、と耳が動きそうだった。恐らくそれは「変人速攻」のことだろう。やっぱり見る人が見れば、影山くんがとんでもない人だということがすぐに分かるんだな、と少し感激した。
あわよくばそのまま注目していてくれ、と思ったのだが、流石に彼らは冷静だった。
「……翔陽が攻撃の軸……なら、止めちゃえばいい」
少し逡巡してなるほど、と頷いた。
この人が音駒の『脳』だ。
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作者名：ReG | 作成日時：2022年2月22日 21時
