96 ページ47
電話を切って戻った時には試合はほとんど終わりかけていた。日向くんのスパイクがまた決まって、楽しそうに二人は拳を握った。私はそれを見て微笑んでから靴をきちんと履き直した。
「Aちゃん、お家は大丈夫？」
「は、はいっ、とりあえずは、ですが……」
駆けてきた私に清水先輩が声をかけてくれる。他の皆さんは試合に夢中だった。彼等が注目されているのが分かるくらいの視線で、日向くんが跳ぶのを見ていた。
私もつられて日向くんを見る。バチンと音がして山口君の横へとボールが打ち付けられた。彼らの得点になり、試合は終わった。
私はそれを見てほっと一息つきながら、隅へと投げられていたシャツを拾って畳む。ちらりとコートを見ると月島くんが半袖になっていた。いつの間にか月島くんは上着を脱いでいたらしい。
そういえば彼も案外子供らしかったのだった。少しは負けたくないと思ったのだろうか、とぼんやりと思っていると、等の本人がこちらに来た。恐らくこのシャツを取りに来たのだろう。
「お、お疲れ様」
「……どーも」
「あ、ご、ごめんなさい、勝手に畳んじゃった」
「いいよ別に」
しかし彼は横に置いたペットボトルを手に取った。汗もかいているし、今この上着を着るつもりは無いのだろう。山口くんもその後ろをついてきたので、彼にも労いの言葉をかける。
「上着、置いておいた方がいい？」
月島くんは基本あまり他人に触れてほしく無さそうだし、私がこれを畳むのはまだしも、持ったままなのはどうなのだと思ってそう言ったのだが、彼は少し黙ったあと、面倒くさそうに首をふった。
「どっちでもいい」
「そ、そう……？」
「月島！」
日向くんが駆け寄ってくる。その後ろで影山くんが月島くんを嫌そうに見上げていた。
すっと手を出した日向くんに「何」と簡潔に月島くんが尋ねると、どうやらそれは握手らしい。
月島くんは嫌がっていたが、飛びかかってきた日向くんは諦めずに手を狙っていた。たった握手一つでこんなにはしゃげるものか、と少し苦笑した。
「あ、神風さんも！」
「えっ！？わ、私？」
月島くんの手をグッと握ってすぐさま離した彼は、今度は私に照準を定めた。あまりに素早くこちらに来たので、びっくりして一歩下がってしまうが、握手自体を拒む必要は無かった。私は大人しく手を出した。
「ありがとう！」
「わ、私何もしていないけれど……、おめでとう」
月島くんの時より柔らかく握られた手に、少し微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 49人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ReG | 作成日時：2022年1月26日 4時
