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「厨のことは全て相坂さんへお任せしてください。お客様のアレルギー等は紙に書いて間違いのないように。食材の入荷はもう終わっていると思いますが、再度確認を。
お客様の案内は伊丹さんと松井さんに__」
テキパキと電話で指示を出す。清水先輩に事情を話して、使用許可をもらったのだ。先輩は私の家が旅館だと聞くと驚いていたが、すぐに「頑張って」と激励してくれた。
ただ私もすぐに帰ることは出来ない。混乱で忘れそうだったが、私は今ストーカーにつけられている可能性があるのだ。ここで慌てて一人で帰るのは、少なくとも絶対に安全であるとは言えなかった。
お母様のことは心配だが、少なくとも松井さんの慌てようからすると緊急性はない。焦らず、危険な橋は渡らないようにしなければ、と自分を落ち着けた。
「……もし布団が足りなかった場合は、空き部屋の薔薇の間と牡丹の間から取り出してください。旅館内部の空調の確認は夏目さんに、お客様の送迎があれば永原さんにお願いしてください」
『お嬢様、ご予約されていないお客様がいらっしゃったんですが!』
「……では、椿の間へご案内してください。受付の項目はきちんと二人で確認するように。他、ご要望があればなるべく沿うようにしてください、判断に迷う場合は私へ」
タオルを洗濯機へと運んで私は少し息を吐いた。物を運びながら話すのは少し疲れる。
すぐには帰れないということを話すと清水先輩に余計な心配をかけさせてしまうと思ったので、電話は指示でするのでマネージャーの仕事は問題ないです、と告げたのだ。事実私はそれが出来る。
先輩は戸惑っていたようだったが、私を見て頷いてくれた。本当に先輩には頭が上がらない。その気遣いがとても嬉しかった。
「他、何かありますか?」
『とりあえず、今のところは大丈夫かと……』
「……いえ、すみません。今から鹿の間のお客様がお帰りになられますよね。お見送りは……永原さんと夏目さんにお任せします」
『あ!?そうだった!ありがとうございますお嬢!』
「だ、大丈夫です。他は多分、ないと思うので……」
ピ、と洗濯機のボタンを押した。今頃彼らはどうなっているだろうかと不安な気持ちもあったが、私は私のやることをやるだけだ。私は回り出した洗濯機を見てよし、と頷いた。
電話を続けながら動くのはしんどいが、こういうこともいずれ何かの役に立つだろう。私はもう一度気合いを入れ直して体育館へと走った。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時