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「あら……だ、大丈夫かな」

先程上手くいった速攻をもう一度やろうとして、トスが日向くんの顔面へと突き刺さった。あまりにダイレクトに吸い込まれていったものだから心配になったが、日向くんは至って元気そうだった。

日向くんはトスを「見ないで」打つという。どう考えても現実的ではないアプローチだったが、今の彼らにはその速攻は最強の武器だ。これからまだ伸び代もあるだろうから今はそれでいいだろう。

何より影山くんのトスを打ってくれるということが、私には嬉しかったのだ。あの日、あの場面を見た私も、彼と同じような苦しみを抱えたままだったのだとその時気づいた。もちろんその程度は違うが、それでも心のモヤは確かにあった。それを溶かしてくれるようなプレーに、私は感謝しか出来ない。

影山くん達のチームが20点を取ったところで、私の後ろのドアがカタリと音を立てて小さく開いた。それは顔だけ出せるような狭さで、何事かとびっくりして振り向いた私の前に、見知った顔が現れた。

「あっ、お嬢様!」
「へっ、ま、松井さん?」

試合中だとすぐに分かったからか、顔を出した松井さんは小さな声で私を呼んだ。私ももう注目を集めたくないので、清水先輩に会釈をしてからすっと体育館の外へ出た。

影山くん達のプレーはまだ続く。あまりもたもたしていたくはなかったので、すぐに事情を聞く。

「女将が熱で倒れたんです!」
「お、お母様が!?」

それは心配だ。お母様の体調もそうだし、旅館の運営もだ。基本お母様が指示を出している上細かな調整も行っている。それは他の方々には出来ない事だ。

そういう時は私の出番になる。未熟ではあるが、指示を出す上で一番適切なのが私なのも事実だ。携帯電話は鞄の中に入れていて連絡が付かなかったから、わざわざこうやって足を運んでくれたのだろう。

「お客様は?」
「そんなに多くないです、ただ九組は超えてます!」
「わ……分かりました、時間はかかるかもしれませんが、電話で指揮を取ります。すぐ帰られるようならそうしますが、可能性は低いです。松井さんは安全運転で戻ってください」
「ほんとすいません、大事な時に!お願いします!」

彼はすぐさま踵を返して走った。みるみるうちに背中が遠ざかっていく。短距離なら影山くんにも勝てるだろう。

私はこうしてはいられない、とすぐに体育館へ戻る。部活も旅館の手伝いも、どちらもやると決めたのだから、中途半端にはしない。清水先輩、と私は声をかけた。

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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時

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