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試合はかなり拮抗していた。というのも、田中先輩のスパイクは月島くんの手を吹っ飛ばしてしまう程の威力なのだが、日向くんはブロックに阻まれてしまうことが多かったのだ。
日向くんにとっては嫌な相手だな、と冷静に分析する。今の彼には非常に高い壁だ。それにブロックを抜けたとしても、安定感のある澤村先輩のレシーブで綺麗に返されてしまう。厳しい戦いだ。
それに対して月島くんが挑発する。どうやら彼は口喧嘩が強い方らしい。的確に相手を煽り、冷静さを失わせるように仕向けている。同じ進学クラスというだけあって、頭の回転はとても早いみたいだ。
そんな挑発で頭がいいと判断したくは無かったのだが……、そもそも今後仲間になるであろう人達に向けてそんなに煽りを向けていいのか、と不安になる。後で喧嘩をしなければいいのだが。
「……噂じゃ『コート上の王様』って異名、北川第一の連中がつけたらしいじゃん」
「……」
私は黙った。口を出すべきでは無かったから。
でも、その言葉は確かに彼を抉るような鋭さを持っていた。
「横暴が行き過ぎてあの決勝、ベンチに下げられてたもんね。速攻使わないのもあの決勝のせいでビビってるとか?」
月島くんは楽しそうにそう言った。それに私も心が痛くなる。だってそんなの、誰が見たって一目瞭然なのだ。
「……ああそうだ」
彼は肯定した。私は何も言わない。
そんなこと、影山くんが一番分かっているのだ。
「トスを上げた先に誰もいないっつうのは、心底怖えよ」
あんな拒絶は、あんな絶対零度は、そう簡単には彼の足を離してくれないのだ。彼もそれを分かっていた。
だけど。
「えっでもソレ中学の話でしょ?」
彼の隣には、今、共に戦う太陽がいた。
「俺にはちゃんとトス上がるから、別に関係ない」
私は思わず息を止めた。
そんな風に影山くんの過去を捨て去ってくれる台詞があったなんて、ということの驚きと、日向くんがいてくれて良かった、という安心感が、同時に私を襲ったのだった。
それは私には出来ないことだ。一緒のコートに立てない私では到底無理なこと。
プレーが再開された後、日向くんは走り出した。大きく上へと跳んで、「影山!」と叫ぶ。
「いるぞ!」
ああ、その一言が、どれだけ彼の心を救うのか。
「俺にトス、持ってこい!」
私は今まで止めていた息をゆっくりと吐いた。私は背中を押すことしか出来ないが、彼は影山くんを引っ張っていってくれる。
それが、とても嬉しかった。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時