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いつものように影山くんと一緒に登校する。彼は集中しているようで口数が少なかったが、よく観察してみると、どうやら緊張しているらしかった。
彼が緊張を表に出しているのは珍しい。テストや入試以来だ。それを少しでも和らげようと、私は相坂さんからの伝言を告げた。
「相坂さんが、勝ったらご飯食べに来てって言ってたよ」
「!?い、いいのか」
相坂さんに胃袋を鷲掴みにされている影山くんは、勢い良く私を振り向いた。頷くと、少しやる気が出てきたのか「よし」と小さく呟いた。
「……私、昨日皆で何を話していたかは分からないけれど、ちゃんと信じてるから、頑張ってね」
本心を口にする。少し恥ずかしい気もしたが、こういうことなら直球で伝えた方がいいだろうとの判断だ。回りくどくない直接的な言葉は、相手によく響く。
彼はぐっと押し黙って、それから私を少しだけ追い越した。
「おう」
小さなその返事は、きちんと私に伝わった。
「あ、し、清水先輩。他、何かやること、ありますか?」
「ううん、大丈夫。スコアボード、一緒にやろうか」
「は、はいっ」
体育館で試合の準備を進める。私達マネージャーはスコアボードを出したり、選手のタオルの用意をしたりと、そこまでゆっくりは出来ない。ただ今からやるのは三対三の試合なので、手の空いた先輩方が手伝って下さった。そのおかげでそこまで大変では無かった。
「あ……、清水先輩、これは……」
「それはまだ大丈夫。……ちゃんと、Aちゃんのもあるよ」
タオルを取りに行った時に私が見つけた段ボールに、清水先輩は美しく微笑んだ。私は相変わらず顔を少しだけ赤くして頷いた。どうか彼等がこれを受け取れますように、と願うばかりだ。
選手達がコートに入る。こうして見ると日向くんと月島くんとの身長差もかなり凄い。私ほどではないが、上から叩き落とされるのではないかと錯覚してしまいそうな差で、日向くんのことが心配になった。彼の跳躍力は私自身この目で見ていないので、本当に大丈夫だろうか、と不安になる。
月島くん達のチームには澤村先輩が入るらしい。先輩は練習を見させていただいた時に、レシーブがとてもお上手だった記憶がある。後方支援に回って、攻撃面では月島くん達に一任するらしい。花を持たせる、というやつだ。
ピッ、と鳴った試合開始を告げる笛に、祈るように手を組んだ。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時