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先生は私の言葉に驚いていたが、私が申請書を渡すと気まずそうに受け取った。私がこんなにハッキリ言うのに面食らったらしい。書類に目を通して不備を確認した後に、
「すまんな、馬鹿にした訳では無いんだが」
と謝ってくれた。私はそれに大丈夫です、と返して頭を下げ、職員室を出た。やっと廊下の電気がついた。
先生の言うことはもっともだったが、私はここへ「馬鹿」をしに来たのだ。それがどんなに無謀でも、私の今までの知識が役に立たずに散ることは無い。今は何でもやってみたいのだ。
教室に入っても誰もいなかった。先生に声をかけられたからといって、五時近くに学校に着いた事実は消えない。現在時刻は五時二十三分。まだ外は暗い。私はいつも通り電気をつけて少し窓を開ける。風がふわりと私を包んだ。
鞄から問題集を取り出す。もう残りはおよそ三十ページといったところだった。毎朝この時間からやって、家でも同じように復習していれば納得のペースだ。
ただ、これを全てこなしたからといって医療分野が全て分かった、とはならない。他の参考書や問題集等も買わなければ、と決心する。何においても、「知識」という事だけは、私は誰にも譲りたくはなかった。
すらすらと問題を解いていると、ガラリと後ろの扉が開いた。人が登校してくるくらいの時間が経ったのだろうか、と思ったが、そこにいたのは日向くんだった。ぜえぜえと息を切らして私を見つけて叫んだ。
「神風さん！」
「は、はい。どうしたの？」
「影山のこと説得して！」
「えっ？」
まさかそれを言うために走ってきたのだろうか、そもそも影山くんを説得してとはどういう意味なのだろうか。それを考える前に彼は私の手を取った。私より少し大きいくらいの暖かい手のひらが、力強く私を引っ張る。
「お願い！」
「えっ……えっ！？ちょ、ちょっと、待って！」
ぐんっと加速して走る日向くんに、足をもつれさせながらついて行く。足が絡まって階段から落ちるのではないかと錯覚してしまいそうなほどのスピードで、彼等はいつもこんな速さで走りながら口喧嘩をしているのか、と尊敬した。口を開いたら舌を噛んでしまいそうだったが、私は叫んだ。
「ひっ、日向っくんっ！ま、待って、私、転ぶっ！転ぶからっ！」
「転ばないって！」
「と、とにかく、待って！すと、ストップ！」
やっと止まった日向くんは息を切らす私を不思議そうに見た。少ししか息が切れていない彼を恨めしく思いながら、精一杯息を整える。
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作者名：ReG | 作成日時：2022年1月26日 4時
