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退屈で仕方の無い授業が終わり、弥生ちゃんはため息をつきながら私の前の席へどかりと座った。早くもお昼休憩だったので、一緒に食べようということらしかった。私もお弁当を取り出した。
「そういえば、勉強が趣味ってどゆこと?復習予習が好きで堪らんってこと?」
彼女はメロンパンを食べながら不思議そうに首を傾げた。昨日のうちに聞いてこなかったのが不思議なくらいだったので、私も首を傾げながら答えてしまう。梟みたいだった。
「ええと、勉強そのものが好き、かな……。知らないことを知るのが好き、という感じで、知らないままなのが嫌、ってこともある、かも」
「ふうん、変わってるねー。いいと思うけど」
彼女に会って早々否定されるかもしれないとびくびくしていたが、彼女はそう言ってにんまりと笑う。私の心配なんて杞憂だ、というように寛大な笑みだった。
「人の趣味なんてそれぞれでしょー?殺人とか、法を破らない範囲なら、何でもいいじゃん」
「ほ、法を破る趣味の人がいるの……?」
「世の中にはいるんじゃない?てか僕に聞かないでよー、絶対Aの方が知ってるでしょ!」
彼女はなんでもないように私をからかったが、私はその言葉になるほど、と思わされた。確かに趣味が何でもこうやって言ってくれる人もいるのだから、あまり気負わなくてもいいのかもしれない。まあ、それが出来ていたらこんな根暗にはなっていないのだけれど……。
「あ、ありがとう、弥生ちゃん」
「んー?お礼言われちゃった、どうもー」
ふわふわとくせっ毛が猫の耳のように揺れていた。
さて、そんな彼女は父嫌いだったが、その父の言うことにはあまり逆らえないようだった。曰く、「口喧嘩では勝てない。殴り合いなら勝てる」とのこと。殴り合いは絶対しないでほしい。野蛮なことを思いつかないで。
ということで、彼女はお父様からの電話で放課後すぐに帰っていってしまった。怒りに満ちた目つきで、しかし私をぎゅっと優しく抱きしめて「離れたくないよー」とまで言っていたが、二度目のコールにとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、
「うっさいな!分かってるって今行くから待ってやがれよバーカ!」
と、叫んでいた。
まあ追い打ちでかけてこられたら怒るのも無理はないな、と私が思っていると、彼女はしょんぼりと眉を下げて私に謝った。
「そんなことで、嫌いにならないよ」
そう言うと彼女は救われたように笑ってくれた。
ということで、放課後。私は一人きりである。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時