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それに苛立ったのか、影山くんはバシンと遠くへボールを飛ばす。思わず田中先輩が「性格悪っ！」と叫んだ。私もそう思うので黙っておいた。
「……日向の運動能力、中学ん時から凄いよな」
ポツリと呟いた田中先輩の言葉に、菅原先輩がでも、と続けた。それを聞きながら、私は日向くんを見つめる。上へと上がったボールをただ見つめて走り出していた。
「それとは別に、日向には勝利にしがみつく力がある気がする」
一歩。強く、彼は床を蹴った。
飛び込むようにボールを拾う。あんなに急に遠くに飛ばされたのに、間に合うなんて思っていなかった。だから、田中先輩と一緒に声を出してしまった。
「上がったっ……！」
「スゲーぞ日向ァ！」
先輩が声をかけても、彼は一瞬たりとも気を抜いていないように見えた。ズシャッとスライディングした体勢をふらつきながら直している。
高い軌道を描いたボールはそのまま影山くんへと戻った。そして彼は打つ訳ではなく、両手を上へと上げた。
それは恐らく、迷った末に決意して出したゆるやかなトス。
先輩方も驚いて声を出していた。日向くんはフラフラなのに、今トスを出すのか、といった具合だったが、ここまで見てきて私は確信していた。
彼は、絶対にこのトスを打つ。
予想通り、パッと顔を上げた彼は苦しい表情から一転、笑顔を見せた。思わず圧倒されそうになるくらいの、心から嬉しいと思っているかのような笑顔。それは流石に予想していなかったので、先輩方と同じように驚いてしまった。
キュッ、と音を鳴らして踏み込んだ。高く上へと跳んでトスを綺麗に打つ。
「相変わらずよく跳ぶなぁ〜！」
「あんな状態から打ちやがった……しかもあんな嬉しそうに」
先輩の言葉に同意しつつ、私は水の準備をした。流石の彼も手足をついて咳き込んでいる。明らかに無理をしていた。水分を取らずに動き続けるなんて、そんなにしんどいことはない。
「……おい」
と、影山くんが日向くんへと声をかけた。ヘトヘトの日向くんはなんとか顔を上げる。
「土曜日、勝つぞ」
影山くんはそう言うなりぷい、と横を向いた。でも確かにそれは、影山くんが彼に対して言った決意の台詞だった。
「ゼ、あ、あたっ、当たり前っ」
「あ、わわっ、日向くんっ、水飲んで、それでこっち！」
口元を抑える彼に慌てて近づく。そんなことだろうと思ったのでゴミ袋も準備済みだった。幸い、彼らのタイムリミットが終わるまでに片付けは出来た。
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作者名：ReG | 作成日時：2022年1月26日 4時
