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「マネージャー!?やってくれんの!?」
「う、うん、そう……昨日入部届けを出したから、金曜日から正式に」
「くっ……」
「入部届けを弾かれたのは自業自得だと思うし、そんなに私のこと、見ないで……」
日向くんは相変わらず接しやすい人だった。私も学校鞄を下ろすと飛びつくように私に話しかけてきてくれる。
日向くんに「見学すれば?」と言われたこともマネージャーになろうとしたきっかけであったので、少なからず彼には感謝していた。
「おい、やるぞ!いつまで神風と喋ってんだ!」
「うっせーな!分かってる!」
「あっ、ごめんね引き止めて……頑張って」
影山くんがボールを持ったまま遠くで日向くんを怒鳴ると、それに負けない声量が体育館に響いた。ぽつんと一人取り残される形になるが、私は極力彼らの邪魔をしたくなかったので、ちょうどいいと言えばちょうど良かった。壁にかけてある時計は午前五時十五分を指している。案外彼と話していたようだった。
少し目を離しただけなのに、ボールが叩きつけられる音が何度もする。キュッとシューズが鳴って、何回もバチンと痛そうな音がする。少しびくびくしてしまうが、これにも慣れなければいけない。
「おいっ手加減すんなっ!」
「っ上等だァ!」
喧嘩しているのかと錯覚してしまいそうな言葉に思わず振り向いた。影山くんから放たれたボールが、日向くんの腕に当たってきちんと上へと上がる。それを何度も繰り返していた。
前の方へと落とされてもしがみついて、奥の方へと飛ばされても足を伸ばす。それはなんだか、とても苦しそうに見えた。けれど、
「……執着心」
ボールに食らいつく程の執着心。絶対に上へと上げてやるという執念。
それが少しだけ、怖いと思った。
バレー初心者だから余計にそう感じてしまうのかもしれなかったが、とにかくぼうっと見ている訳にもいかなかった。この練習は案外続いている。日向くんの体力が持つかが心配だったし、持ったとしてヘトヘトになることは目に見えていた。
水の準備だけしておこうと体育館をそろりと出ようとして、目の前に人がいたことに気づく。今の今まで気づかなかったので、大袈裟に飛び上がってしまった。
「おっ、おはようござっいます……」
「あっ、ごめん、驚かせた?おはよー神風さん」
爽やかな笑顔のまま手を振ってくれるのは三年生の菅原先輩だった。彼は外からじっと二人のラリーを見ていた。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時