【HQ】学びよ、力となれ【影山飛雄】 (ページ7)

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コツコツとチョークが黒板を白く彩っていくのを見ながら、同時に目に入ってしまう背中を見る。

「…………」

確実に寝ている。何故なら頭がかくんと何度も力が抜けたように揺れているから。
後ろからでも寝ているのはばっちり分かる。ましてや先生の位置からなんて言わずもがなだ。

英語や国語など、コミュニケーションが関わってくる分野の先生はかなり厳しい。すぐに叩き起されて怒られる。それは勿論寝ている人が悪いので異論はない。

「で、この公式を使います。Xイコール……」

しかし数学の先生は別だ。聞かなかったらお前たちの点が落ちるだけだぞ、というスタンスなので、寝ている人は無視。淡々と授業を進めていく。
なので一度寝てしまったりすると授業についていくのが大変になるのだ。宿題の範囲も口頭で言うので把握しづらい。
そんな授業を、彼は子守唄にしていた。

「…………」

ついに机に突っ伏してしまった彼を見て、この子大丈夫かしらと不安になってしまう。
いくらノートを作っても彼にその気がないのなら話は別だ。私の時間も彼の時間も無駄になってしまう。
ただそれを言う勇気と元気は私には無かったし、彼とは昨日一度話しただけで、親しくはない。
起こせなくてごめんなさい。心の中で謝った。

授業が終わって休憩時間になっても彼は起きない。次の授業は理科で、実験があるから理科室へ移動しなければならないのだが、すかすかと気持ちよさげに寝ている。
心配で見すぎていたのか、もう教室にはちらちらとしか人がおらず、授業開始まで残り三分を切っていた。
幸い理科室は近いので、小走りで向かえば十分に間に合う。
私は深呼吸をした。

「か、かげ、やまくん」
「…………」

無言だった。起きる気配がない。

「か、影山くん、起きて、移動だよ」
「う……」

もぞ、と動きはしたが、まだ起きない。目もぎゅっと瞑られていた。
こうしている間にも時間は過ぎていく。ちらちらいたクラスメイトもさっき教室を出ていった。
彼のせいで私まで遅刻したくはない。中学生は残酷なので、一緒に遅刻するだけですぐにイジられる対象になるのだ。私はそんなものは御免だ。されたら登校拒否する。
最後の手段だ、と少し大きめに息を吸った。

「ほ、放課後だよっ、ぶ、部活、バレーはっ？」
「……っ、放課後！？」

がばりと勢いよく起きた彼の挙動に、思わず仰け反ってしまう。
彼は私と目の前にある時計を見比べて、目を見開いてぽかんと口を開けた。