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私は無知が嫌いな訳では無い。無知である人が知らないものに囲まれて、何故笑っていられるのだと怒りにも似た感情を覚えるだけだ。無知であることは悪いことではないが、無知を誇っている人が許せないのだ。
自分が知識があるからそう言っている訳では無い。昔からずっとそうだった。周りに「分からないもの」があるだけで、私はずっと恐怖に苛まれていた。未知は恐怖とほぼ直結していたのだ。
だからこそ、何故彼らが笑って過ごしているのかが理解不能だった。未知なものにどうして恐怖心を覚えない？未知なものを知る手段があるのに、どうして知ろうとしない？
答えは単純だった。「そんなことより楽しいものがあるから」だ。そんな小さなことに気づかずに、私は今まで生きてきた。
だから、私も少し馬鹿になろうと思ったのだ。人生で一回くらい、失敗してみてもいいかな、と思ったのだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。お嬢、似合ってるぜ」
相坂さんが後ろで私を素直に褒めた。私は照れくさくなったが、振り返ってありがとうございますと言った。彼はいつも通り楽しそうに笑っていた。
三つ編みはそのまま、長くなった前髪は少しだけ切った。それでもまだ長かったが、あまり短くして変になっても嫌だし、目に少しかかるくらいが私にとっては丁度いい。
分厚いレンズの眼鏡もそのままだ。見た目は中学の時と変わらない。変わったのは制服だけ。
学校指定のセーターを着用して、120デニールのタイツを履いた。春とは言えまだ肌寒い。慣れたことの無い道を歩くから、寒さ対策はしておきたかった。
朝早いからか人はちらほらとしかいない。誰も私に注目せず、私も誰にも注目せず、するりと新たな学校へ着いた。
先生方は「早いね」と微笑んで新入生である私を受け入れた。案内された教室はもちろん私だけ。少し窓を開けて、外の桜の匂いが入ってくるのを受け止めた。
この瞬間が、私は大好きだ。今も、昔も。
小説を読んでいると待機時間はすぐに過ぎた。同じクラスの仲間たちと並んで体育館へと入る。大きな拍手と吹奏楽部の音楽が私達を歓迎した。心做しか、皆も少し楽しそうだ。
椅子へと座り、在校生に後ろで見守られながら、校長先生の話が始まる。すでに頭がぐらぐらとしていた人達もいた。それに懐かしさを覚えて少しだけ笑った。
「……では、新入生諸君。烏野高校へようこそ」
締めくくった時刻は、午前九時三十分。心の中で、言わなくてごめんね、と謝った。
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作者名：ReG | 作成日時：2022年1月22日 18時
