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試験の結果が発表された。私は運が悪くインフルエンザにかかってしまったので、代理として伊丹さんに見てきてもらう手筈になっている。影山くんと一緒に行こうと約束したけれど、インフルエンザに阻まれてしまった。悔しい気持ちでいっぱいだ。
彼には既に松井さんから連絡が入っているはずだ。松井さんに「彼は何か言ってましたか」と聞くと、
「いえ何も!お大事にとのことです!ちゃんと俺から圧かけておきましたよ!」
と笑顔で親指を上に立てていた。かなり不安にはなったが、伝えてくれたのは確かなようだった。「圧なんてかけなくて大丈夫ですよ」と言うと、彼は嫌そうな顔をした。私のことを可愛がってくれるのは嬉しいが、影山くんには優しくしてあげてほしい。私の友人なのだから。
「お嬢、伊丹さんからお電話です」
そう言って夏目さんがひょいっと顔を出した。影山くんのことを今でも私の彼氏だと勘違いしている男性で、旅館には珍しい赤髪が特徴だ。お母様は髪色は自由になさいと仰るので、皆さん結構遊んでいる。
持ってきてくれた携帯を耳に当てる。はい、と返事をするが、声は枯れていた。
『あ、お嬢様?大丈夫ですか?』
「はい、だいじょぶ、です……結果は」
『あら、そう急かさなくても、きちんと受かってましたわよ。受験番号って304でしたよね』
「そうです……、あの、彼は」
自分が受かっていることなど分かっていた。余りにも手応えがないものだから一周まわって不安になっていたところではあったけれど、それでも簡単だと感じたのは確かだった。
それより、彼だ。影山くん。やるだけやったけれど、その結果はどうなのだろう。
伊丹さんは少しだけ言葉に詰まったようにした。そして静かに結果を教えてくれた。私は小さく、息を飲んだ。
「……ありがとう、ございます」
電話を切って夏目さんに渡す。彼はマスクをしていても分かるくらい、心配そうな顔で私を見ていた。それはどう見ても、私の体調を心配している目ではなくて、他のものを心配している目だった。
「お嬢、彼は……」
「……ううん」
私が静かに首を振ったので、彼は悲しそうに謝った。私はすぐに許す。その代わり喉が乾きました、と言うと、彼はすぐに部屋の扉を閉めた。
「……けほっ」
彼は今、どうな顔をしているのだろう。
春と同じように泣いているのかな。それとも悔しがって唇を噛んでいるのかな。やっぱりか、と諦めたように下を向いているのかな。
考えるだけ、無駄だった。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月22日 18時