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時が流れるのは早いものだ。私は未だかつて、こんなに時が過ぎるのが早いと思ったことは無い。それは一体何が影響したのかというと、隣にいる彼に他ならなかった。

「きちんと復習した?素数を十個答えて」
「2、3、5、7、11、13、17、19、23……」
「あと一つ」
「29」
「落ち着いた?」

試験当日。私は彼と別の教室で受ける。先生が間違えて私のものだけ提出していなかった為、私は一番最後の受験番号となった。他に北川第一から受ける生徒は数人だったが、彼らは影山くんがいることにびっくりしていた。何も知らなかったらそうなる。

彼は多少不安なのか肩が上がっていた。素数を数えさせて落ち着かせる。思考をすると他のことが気にならなくなるようなので、この方法はうってつけだった。

出来ることはやったはずだ。期末の結果も悪くない。むしろ先生方が涙したくらいだ。ちなみに涙したというのは比喩ではないが、涙した対象は私にだった。

「よくぞ影山を教え続けてくれた」

と数学の先生から言われた時は、周りの先生方も涙ぐんで私にお礼を言った。彼の努力の賜物だが、諦めずに教えていた私のことが印象に残っていたようだ。私は影山くんが頑張ったからです、と返したが、それも私の遠慮深いところだと解釈されて、さらに感動させたようだった。

彼はそれに対して不満げにするかと思っていたのだが、あっさりと「そうだな」と認めた。それに今度は私が恥ずかしくなってしまった。本当にそんなことはないのだが、彼から素直にそう言われるのは悪くなかった。

「じゃあ、私はこっちだから……集中、でも慎重にね。言ったこと、忘れないで、頑張ろう」

私は頑張って、とは言わなかった。初めての受験というものにどきどきしていたところもあったし、今まで一緒に勉強してきた彼には、この方が適切だと思ったから。彼は予想通り、少し笑った。あまり見ない彼の笑みに、私は不安を吹き飛ばされた気持ちになった。

「おう」

かち、かち、と時計の針が動く音と、鉛筆が紙を走る音が教室を埋め尽くす。それを聞きながら、私は解答が終わった答案用紙を見て、少しため息をついた。
やはり過去問と同じで簡単だった。思考する間もないほどすらすらと解けていく。中には過去問と同じものがいくつか入っていて、もう少し工夫してほしいと悪態をつきたい気分だった。そんな度胸はないけれど。

彼は大丈夫だろうか、と思って時計を見た。まだ試験開始から二十五分しか経っていなかった。

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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月22日 18時

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