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勉強会五日目。今日が平日最終日だ。今日教えたら後は彼の努力にかかっている。
先生方も今日に限っては授業で自由時間をくれた。自由時間といってもテスト勉強に使う時間であって、皆はひっそりと教えあったり、一人で黙々と問題を解いていたり、はたまた全く勉強をしていなかったりと過ごし方は人それぞれだった。
「神風」
「はい」
勿論補習が目前にきている彼は勉強しない訳にはいかない。先生が自由時間を告げた後、すぐに私を振り返った。
絶対にそうするだろうと思っていたので、私はもう机の上を片付けた。彼は今日渡した理科のノートを持って私の机に広げる。
「化学分野はとにかく問題を解くことが大事だから、教科書をみながらでもいいから、解いてみて。
化学の復習は明日やってね、その方が効率的に覚えられるから」
テキパキとノートに書き込んでいく。時間は有限なのだ。効率よく使っていかなければ。
彼は嫌そうな顔をするものの、小さく頷いた。
「まず、基本元素だけは絶対に覚えてね……これは?」
「酸素?」
「そう。元素記号を覚えるだけでも点数は取れるよ」
「……?Hってなんだ」
「す、水素ね……、H2Oって、聞いたことない?」
前途多難だ、いつものことだけれど。
何回か繰り返して主な元素を覚えてもらう。バレーボールにもこの中にある物質が入っているよと教えると、途端に顔を輝かせたので微笑ましい。是非その熱量を勉強へ向けてほしい。
先生も暇そうにしていたが、影山くんが私に質問をしているのを聞いて目を丸くしていた。そこまで彼の勉強嫌いは先生方に浸透しているのかと少し驚いた。
「……加熱して分解することを熱分解って言うの。この間実験したから、覚えやすいと思うのだけど……」
「……あれか、起こされた時の」
「そう。何か自分の記憶と結びつけると覚えやすいかも」
少し雑談を加えながら、教科書のページをめくる。ほぼ暗記分野なので、理科に関しては大丈夫そうだ。土日は私も関与出来ないのだから、結果的にはお任せする羽目になるのだが……、そう考えると不安だった。
コツンとシャーペンを不意に落としてしまった。慌てて拾い、顔をあげると、隣の席の子が不思議そうにこちらを見ていた。
影山くんに勉強を教えていることに驚いたのだと思う。しかし何も悪いことはしていないのでゆっくり上体を起こした。顔が少し熱を持っていた。
「神風」
彼が私の名前を呼んだ。静かな教室に少しだけ響いて、恥ずかしくなった。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月22日 18時