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「お嬢、大丈夫ですか?」
「へっ?」
「いや、最近ずっと勉強尽くしじゃないですか」
「そうですよ、中間でも何でも、お嬢、そんなに机に向かうことないじゃないですか」
今日も今日とてノートを作ろうと部屋に入ろうとすると、従業員の方々が心配そうな顔で私の足を止めた。
とても嬉しい心配だったが、私はこの作業を特に苦に思ってはいない。むしろ復習になるので助かっている。
「だ、大丈夫です。ご心配おかけして、すいません」
「うーん、お嬢がいいならいいんですけど」
「変な男に騙されてるとかだったら、すぐ言って下さいね!ぶん殴りに行きますから!」
「ぶ、物騒なので、遠慮しておきます……」
優しさが疲れた身体に沁みる。いい人達ばかりなのだ。
私を励ますように笑って廊下を戻る彼らを、手を振って見送る。完全に姿が見えなくなってから部屋に入って鍵を閉めた。
机に向き直って新しいノートを本棚から取り出す。もう在庫がないので、明日の帰りに買ってこなければいけない。こんな速さでノートが無くなっていくのが、少し寂しい気がした。
今日は国語のノートだ。といっても、出される長文問題などを作るとすぐページが切れるので、漢字と文法に重きを置いたものにする。それが終わった後にページが余っていたら教科書の長文を使って問題を作ることにした。
つらつらと並んでいく文字列を改めて見ると、テスト範囲外の漢字等が入ってしまっていることに気づいた。慌てて消しゴムをかけて範囲内の文字へと書き直す。
うっかりするとすぐにこうなってしまう。大学生でも読むのが難しいと言われる漢字は、彼には別の言語に見えてしまう。そうでなくても中学生で読める人は限られて来ると思うが。
何を隠そう、私は変人なのである。端的に言えば、中学生でありながら勉強が好きすぎて、大学の専門分野の勉強に独学で手をつけているやばいやつだ。
知らないことを知れるのは楽しいし、知らないことがあると言うことが気持ち悪い。そういう性格だし性質なのだ。特異なものだと分かっているがやめられない。
だから私は勉強が苦ではないし、逆に勉強をせずに笑っていられる人達のことを理解できない。何故何も分からないままで笑っていられるのか不思議でならない。
「知識は私を裏切らない」
そう呟いて、私は改めて机に向かい直った。
ノートを埋め尽くす文字列を見て、少しだけ満足した。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月22日 18時