23＿minami side ページ23
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Aがギリギリなことわかってたはずなのに、私は何もしてあげられなかった。
飛鳥さんと話し始めてすぐ泣いて座り込んでしまったAに駆け寄りたかった。けど、Aのいる場所は呼ばれた人たちの場所で、私はひな壇の上から2番目の位置に座ってて、どうしても駆け寄れなかった。近いはずなのに、透明で分厚い壁があるような気がしてしまった。
Aが泣き出した瞬間、皆さんの視線がAに集まった。Aが泣いてるイメージがないからだと思う。
バスラ終わりに泣いてきたんだろうなっていうところは見たことあるけど、実際に泣いてるところは一度も見たことがない。
前に話していた時に感情として泣くっていう選択肢が少ないんだよね、涙は演技で使うものだと脳が思ってるとケラケラ笑ってた。
でも4月に入ってからのAはどこか様子がおかしかった。握手会かーってちょっと嫌そうな顔したり、三期生ライブのリハ期間に話しかけたらうまく交わされたり。
桃子は辛かったらすぐわかるから接しやすいけど、Aは多分辛くなるほど自分の内側に籠る人なんだと思う。それをわかってたのに私はアタックできなかった。
多分原因は握手会と学校のこととか。
Aは先輩方に混ざって三次販売で個別握手会を完売してしまうほど人気だけど、たまにわざわざお金と時間をかけて酷いことを言ってくる人がいると愚痴を溢してた。自分の気にしてることを言われると心に刺さるねーと笑いながら言ってた。
それからAはすごく有名な私立の高校に通ってて、勉強との両立と大学進学をどうするかで悩んでるっぽかった。
美波「A、ごめんね」
「なんで謝るの〜」
三期生の楽屋に戻ってる途中の廊下で歩いてるAと桃子を見つけて、どんな言葉をかけるかも考えずに話しかけちゃった。
スタジオで嗚咽が聞こえてくるくらい泣いてたAの目は真っ赤。
美波「Aが無理してるのわかってたのに全然話聞いたりできなかった」
「そんなことないよ！」
美波「そんなことある、ごめんね」
桃子「それ言ったら桃子なんて自分のことで精一杯すぎてAの状態なんてなんも知らんかったよ」
2人は乃木坂46の表題曲のセンターに選ばれた30分前のことなんて忘れたかのようにケロッと笑ってる。
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作者名：yurima | 作成日時：2024年2月6日 23時
