58.恐怖 ページ8
それから私は稔くんを好きになった経緯を話した。
あの時、私を手伝ってくれたこと、
誰にでも手を差し伸べられる稔くんに惹かれたこと、
そして助けてもらったあの日から、
私も人のためにできることをしようと行動したこと。
「稔くんのおかげで私変わった気がする」
「外見も内面も」
「稔くん、ありがとう」
あの日の話をしたが、
稔くんは覚えていなかったようで、
「そんなことあったっけ？」
と言いながら笑っていた。
人を選ばず手を差し伸べられる稔くんは
本当に素敵だと思う。
私も見習わないとな。
「でも良かった」
突然の稔くんの言葉に振り向くと、
稔くんは安心したようにこちらを見ていた。
言葉の意味がわからず、
「どういうこと？」
と尋ねる。
「それで好きになってもらえたんだろ？」
「あの時の俺、ファインプレーだな！」
そう言って稔くんは少し頬を赤らめ、ニカッと白い歯を見せて笑った。
そしてその後、ふと表情を緩めた。
「あの時助けたのがAで良かった」
表情を緩めた時の稔くんの顔が、
私を好きだと伝えているみたいで勝手に心臓の動きが速くなる。
この表情、好きだな。
「…そう言ってくれてありがとう」
そう言いながら、私は隣に座っている稔くんの肩にちょこんと頭を置いた。
すると稔くんは、肩に手を回して、私の体ごと稔くんへと引き寄せた。
「…俺は何があっても離れないから」
「安心してくれ」
その言葉にハッとした。
私は母が自らの命を断とうとしたと聞いた時、
初めて自分の大切な人が自分から離れていくということを身を持って知ってしまった。
だから怖かったんだ。
大切な人が私から離れていくのが、
すごく怖いー・・・
私は不安をやらわげるように、
稔くんに抱きついた。
それはもう強く。
稔くんはそれに気づいていたのか、
優しく抱きしめ返してくれた。
お願い、稔くん。
私から離れないで。
稔くんがいないと生きていけないから。
お願いだから…
私を嫌わないで。
私以外の人に目を向けないで。
私は稔くんを抱きしめながらそんなことを思っていた。
続く (更新停止中)
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作者名：usa | 作成日時：2023年11月6日 21時
