57.家 ページ7
その後、2人で終電に乗って帰った。
そして稔くんは私を1人にしないように、
家まで来てくれた。
お母さんがいないシンとした部屋に2人。
お互い、最初は緊張してドギマギしていたけれど、
今は少し慣れたのか、
会話は弾んでいた。
そして昔話をたくさんした。
稔くんは小学生の時は結構やんちゃで、
服を泥まみれにしてお母さんに怒られたことがあるとか、
学級委員長をすすんでやっていたとか、
バスケは物心つく前からやっていて気づいたらクラブチームに入っていたとか。
私の知らない意外な稔くんの過去に、ついつい表情が緩んでしまう私がいた。
そんな話をしていると、
ふと稔くんは机に上にあるラッピングされたチョコレートを見つけた。
「これは？」
机にあったチョコは今日、試合が終わったら稔くんに渡すハズだったものだ。
お母さんの件があって渡しそびれたけれど、
今なら渡せる、と緊張しながらも言葉を発する。
「それ稔くんに…」
「俺に？」
「うん。今日渡す予定だったの」
私がそういうと、稔くんは
「食べていいか？」
と聞いてくれ、私はすぐに首を縦に振った。
稔くんが私の作ったチョコを食べるのを
ドキドキしながら眺めていた。
チョコを食べた瞬間、
稔くんは何かを思い出したかのように驚いていた。
不味かったかな、と思い、嫌に心臓はドキドキと動いている。
稔くんは不思議そうに、
でも何かを確かめるように私を見つめた。
「Aって去年のバレンタイン、俺にチョコくれたか？」
「…え？」
稔くんの言葉に、私は去年稔くんの下駄箱にそっと入れておいたチョコレートを思い出した。
あれも同じ作り方で作ったチョコレートだった。
「味が一緒だから」
「あれ美味しかったんだよな」
そう言いながら稔くんは二つ目のパクリと口に放り込んだ。
まさか覚えていてくれているとは思わず、
嬉しい気持ちが込み上げてくる。
「…あれ私…です」
まさか去年のバレンタインのネタバレをここでするなんて思っていなかった。
付き合っていなかったら、一生渡したことを言わずに過ごしていただろう。
差出人が私と伝えられるこの環境に、
私はひどく胸がジーンとした。
私の言葉に、なぜか稔くんの顔が赤くなっていくのがわかった。
不思議そうに稔くんを眺める。
「…その時から俺を？」
結構前から好きであったこともバレてしまい、
顔が熱くなるのが自分でもわかった。
私は静かにコクリと頷いた。
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作者名：usa | 作成日時：2023年11月6日 21時
