56.逃避 ページ6
「自ら命を絶とうとしたんだと思うってお医者さんが…」
震える手を押さえるように両手でぎゅっと手を握る。
母が病院に運ばれたのは、自ら命を絶とうとしたからだ。
命に別状はないみたいだけど、数日は入院。
神奈川の親戚が駆けつけてくれて、
私は家に帰るように言われた。
気を遣って家へ帰してくれたんだろうけど、どうしても1人でいたくなくて。
もしかしたら稔くんが公園に来てくれるかもなんて淡い期待を抱いて公園に行ったのだ。
そして私の期待通り、稔くんが現れた。
どうして稔くんはわかってくれるんだろう。
稔くんは私の寂しい気持ちをいつでも埋めてくれる。
「ダメだってわかってるのに現実から遠ざかりたくて」
「稔くんに遠くへ行こうなんて言った」
「巻き込んでごめんなさい。…逃げてごめんなさい」
最後は誰に謝っているのか。
頭が混乱していてわからなくなっていた。
大粒の涙が地面にポツポツと落ちる。
私は…いつからこんなに泣くようになったんだろう。
「逃げていい」
「逃げることは悪いことじゃないんだ」
稔くんの一言に、驚きが隠せず、
ゆっくりと稔くんを見上げる。
「それに辛くて逃げ出したくなったら言ってくれ」
「一緒に逃げよう」
そう言って稔くんは両方の口角を上げた。
「でもこうやって言ってくれて良かった」
「え？」
「Aは溜め込むから心配なんだ」
「出会った時は感情を殺そうと必死だったから余計心配だった」
そう言い終わったあと、稔くんはニッと微笑んだ。
「最近は泣き虫になったみたいだけどな？」
そうやって冗談めいて笑う稔くんに、
何度心奪われただろう。
そして稔くんは私の涙を自分の指で拭いてくれた。
私は稔くんに飛びつくように抱きついた。
うお、と声を出しながら稔くんは驚いているようだった。
「稔くんのおかげだよ」
「…ありがとう」
「稔くんがいなかったら、私生きていけない…」
その言葉を聞いた稔くんは
優しく私の背中に腕を回し、
ぎゅうっと抱きしめた。
「それでいい」
稔くんは呟くようにそう言った。
私は…
稔くんが私のために動いてくれたことが嬉しかった。
私たちはまだまだ子どもで、
お互い何をするにも親の許可は必要で、、
そんな中で稔くんが自分の無茶なお願いを聞いてくれたのだ。
私は再度泣きそうになるのをグッと堪え、
稔くんを強く抱きしめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 35人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：usa | 作成日時：2023年11月6日 21時
