55.依存 ページ5
「稔くん」
夜空を見上げながら、
名前を呼ぶ。
「どうした？」
そんな私に稔くんは優しい声を発した。
「私がこれから先お金が全くなくても、」
「すっごく太っても、」
「…私に何も残ってなくても、」
「稔くんは私と一緒にいてくれる？」
そんなことを言っていたら、
無意識のうちに涙が流れていた。
「何にもない私でも、稔くんのそばに居させてくれる？」
言葉にするとどんどん感情が表に出てきて、
溢れる涙を止めることができない。
私は腕を目の上において、
泣き顔を隠した。
「A」
「こっち向いてくれ」
稔くんのまたもや優しい声に逆らうことはできず、
私は腕をのけ、稔くんの方に顔を向けた。
稔くんは真剣な顔をして体ごとこちらを向いている。
「Aのそばにいるなんて当たり前だろ」
「俺にとってAは何にも代え難い存在なんだ」
「Aさえいればそれでいい」
そして稔くんは起き上がり、
私に手を差し伸べた。
私はその手に自分の手を重ねると、
勢いよく私の体を起こし、
稔くんの方へ私の体を寄せた。
そして稔くんは強く優しく私を抱きしめる。
「…これから先、証明していく」
「誰がAのそばを離れて行っても俺だけは離れないって」
稔くんの言葉に、私は今まで縛られていたものが少し解かれた気がした。
私は…
彼に依存しているのだろうか。
彼がいないと生きていけない気がする。
「何があったかはわからないが、不安になることなんかない」
稔くんは私の様子から何かあったのではないかと察してくれていたようだ。
稔くんは私のことをなんでもわかってしまうのではないか。
だって稔くんは、私が欲しい言葉をこんなにもくれるのだから。
私は稔くんに今日あった出来事を話そうと決め、
震える手を押さえるように、稔くんを強く抱きしめた。
「実は、今日お母さんが病院に運ばれたの」
声を出したら現実をより明確にしてしまい、
なんだか声も震えた。
稔くんは声こそ発しなかったものの、
驚いた様子で静かに私から体を離した。
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作者名：usa | 作成日時：2023年11月6日 21時
