強く ページ36
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「なんだと!」
異性を取り戻して血気盛んな男。
薄めた笑みを消すと途端に顔を白くさせる。
よくここまで生きてこれたなと思う程に弱かった。
「それで?…そっち側に居続けて、貴方どうするの?一生この世界のままなの?」
「し、死ぬよかマシだろ!」
死ぬよかマシ、ねぇ。
自然と笑顔になる。この男の馬鹿さにだ。
「…死ぬほうがマシ、の間違いじゃない?」
この男には何を言ってもダメだ。
早々に見切りをつけ、アナウンスが鳴ったと同時に彼の赤いボタンを押した。
私たちのターンだ。
ビリリ、と流れる電流に叫び声を上げた男は、ハァハァと息を吐きながら苦しげな顔をしている。
…さぁ、他のプレイヤーもこっちに付けないと。
理論を知った以上、言葉で勧誘するのは諦めた。
スニーカーを鳴らしながら後ろを向き、赤いボタンに向かって走り出そうとした、その時。
「…お嬢ちゃん」
ボタンを押した男が掠れた声で呼ぶ。
小さくか細い、下手したら聞こえていなかったであろう声量で。
振り返り彼を見つめる。
「…君は、強いな…。けどな、世の中の人間、そう簡単に行かないんだよ。欲に塗れてる。」
…欲。
そんなの嫌という程知っている。
おもむろにフードを取り、瞳を合わせた。
べっぴんさんだなぁ、と呑気な感想を零す男のボタンをつ、と指で辿りながら問いかける。
「強く、なりたくないの?」
風が通り抜けた。
その瞬間男が目を見開く。
モタモタしている時間は無い、早く他のプレイヤーのボタンを押さなければ。
私たちのターンになった瞬間に聞こえなくなった足音を、耳を凝らして見つけ出そうとする。
耳には自信がある、どこかで殺した息が漏れる音が聞こえて、私は走り出した。
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「…はは、強く、か。」
鉄骨工場で働く毎日。
男はマメだらけの自分の手のひらを見つめてため息を落とした。
妻に見下され、子供にも足蹴りにされる日々。
こんな世界に来ても強い者に巻かれるしかないのかと思っていたけれど。
グッ、と拳を握りしめる。
上を見上げると、綺麗な月が浮かんでいた。
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みりん(プロフ) - ゆめさん» ゆめさんありがとうございます!長ったらしい小説家とは思いますが、ここまで読み進めていただいたことマキタにありがとうございます!ꈍ .̮ ꈍ メッセージの方でパスワードを送らせて頂きますね! (2023年4月13日 20時) (レス) id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 初めまして!みりんさんの作品全て読まさせて頂きました! どれもとても素敵な作品で、出会えた嬉しさでいっぱいです! これからも陰ながらですが、応援させて 頂きます!お時間のある時に0の方のパスワードを 教えていただけると幸いです! (2023年4月13日 16時) (レス) id: 23764cc589 (このIDを非表示/違反報告)
みりん(プロフ) - はるさん» はるさん、嬉しいお言葉ありがとうございます…!(*ᴗˬᴗ) EP0のパスワードの方、メッセージにて送らせて頂きますね! (2023年4月12日 1時) (レス) @page42 id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - はじめまして!素敵な作品を拝見させていただきありがとうございます!文章力が素晴らしくて凄く感情移入しました( ꈍᴗꈍ) 宜しければEP0の方も拝見させて頂きたいです!お時間ある時によろしくお願いします! (2023年4月11日 18時) (レス) @page40 id: 18e6227b50 (このIDを非表示/違反報告)
みりん(プロフ) - ありがとうございます!︎おふたりとも、メッセージの方にてパスワードを送らせて頂きますね!ここまで読んでくださり嬉しい限りです(^_^*) (2023年4月9日 22時) (レス) id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月21日 2時