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医学書 ページ21



your side


「…ん、」


パチリと目を開ける。
暖かい薄手の布団が被さっていて、私は体を起こした。
あ、起きた?
そう言いながら手元の本から顔を上げるのはチシヤだ。
何を呼んでるのか、全く難しそうな医学書のようなものに顔を顰める。


「…それ、」

「ん、あぁ拝借したよ。」


ハルトが病気になった際に母親がかき集めた本だ。
あまり役に立つことは無かったけれど、とにかく病気も持っていない一般人が分かるような代物ではない。


「…チシヤ、もしかして」

「ん?」


パタリと本を閉じる。
なかなか面白かったよ、と口角を上げる彼の顔は、昔病院でよく見た顔つきと同じだ。


「…ううん、何でもない。」


知っても意味が無い。
ここの世界で元の職業について探るのは野暮だ。
頭をフルフルと振る私をじっと見つめたチシヤがおもむろに口を開いた。


「医者が憎い?」

「…え」


…憎いか憎くないか。
そう問われると難しい質問だと思う。
憎んでいた、時もあった。自分の汚いエゴで弟の移植の優先度を下げて、結果大切な命が失われたから。
…それでも。


「…ううん。憎くなんか、ないよ。」


私は見てきた。
一生懸命、命に真剣に向き合う医者の姿を。
結果的にハルトの命は零れたけれど、それでも日々新しい命に向き合っている姿を。


「…そっか。」


ふ、と笑ったチシヤは「まるで聖母だね。」とポツリと呟き、医学書を元あった本棚に戻した。
少しだけ。
ほんの少しだけ、なんだか彼が救われたような顔をしているのは…。
私の見間違い、かもしれない。

分からせる→←ボーシヤはダメだよ



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みりん(プロフ) - ゆめさん» ゆめさんありがとうございます!長ったらしい小説家とは思いますが、ここまで読み進めていただいたことマキタにありがとうございます!ꈍ .̮ ꈍ メッセージの方でパスワードを送らせて頂きますね! (2023年4月13日 20時) (レス) id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 初めまして!みりんさんの作品全て読まさせて頂きました! どれもとても素敵な作品で、出会えた嬉しさでいっぱいです! これからも陰ながらですが、応援させて 頂きます!お時間のある時に0の方のパスワードを 教えていただけると幸いです! (2023年4月13日 16時) (レス) id: 23764cc589 (このIDを非表示/違反報告)
みりん(プロフ) - はるさん» はるさん、嬉しいお言葉ありがとうございます…!(*ᴗˬᴗ) EP0のパスワードの方、メッセージにて送らせて頂きますね! (2023年4月12日 1時) (レス) @page42 id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - はじめまして!素敵な作品を拝見させていただきありがとうございます!文章力が素晴らしくて凄く感情移入しました( ꈍᴗꈍ) 宜しければEP0の方も拝見させて頂きたいです!お時間ある時によろしくお願いします! (2023年4月11日 18時) (レス) @page40 id: 18e6227b50 (このIDを非表示/違反報告)
みりん(プロフ) - ありがとうございます!︎おふたりとも、メッセージの方にてパスワードを送らせて頂きますね!ここまで読んでくださり嬉しい限りです(^_^*) (2023年4月9日 22時) (レス) id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月21日 2時

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