The Crow's Dream 5

約束したのに ページ3

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your side


深呼吸をする。
何事も落ち着いてやらなければ良い結果は生まれない。
舞台袖でも心を落ち着けるためによく深呼吸をしたものだ。
刻一刻と迫る時を表すように音を立てて刻むカウントダウンが、今だけは鬱陶しい。
これも最後かもしれない。
何ターンも続いて、最早今が何回目なのか分からないけれど。
人差し指に付着した血を薄く開いた瞳で見つめながら、ジャックも酷なことをしてくれたな、と思う。
よりによってイッペーくんの部屋に投げ込むなんて。
…ダメ、今はそんな事を考えちゃ。

もう一度深く呼吸をする。
灰の奥まで酸素がしみ渡る感覚がした。


「…ハート、クラブ、スペード、ダイヤ…。」


4つのマークから絞らなければならない。
確率論で言えばハートである可能性は極めて低いだろう。ここまで出ている回数が最も多い。
その他は均等で、正直どれなのか分からない。
4分の1、25パーセントの確率だ。
生存率の低さに思わず笑ってしまいそうになる。
私は運がない。
コンクールの順番なんか絶対に1番最初だし、席替えだってずっと前だった。
…それでも、不思議と恐怖心は無い。
ふぅ、と息を吐く。
唇を開いた。
真っ白にした頭の中、不意に出てきたマークを選ぼうとして、＿＿＿＿＿


【ハートだよ。】


口が止まる。
一瞬の出来事だった。
カウントダウンは残り5秒、突如頭の中に響いた、一時も忘れてなんか居なかった存在。


「ボー、シヤ…？」

【…ハートを選ぶんだ。まだこっちには来なくていい。】


カン、カン。カウントダウンの音が鳴る。
残り2秒。
早く答えるんだ。剣呑なボーシヤの声が聞こえてくる。
走馬灯と言うやつなのかな、一気に全部がスローモーションになる。
信じてもいいの？貴方のこと。
何を約束しても、守ってなんかくれなかったじゃない。
あの日、ウキウキしながら一生懸命貴方の為に練習したんだよ。帰ってくるって、聞かせるって、約束したのに。
取り留めのない愚痴が胸中を満たして、呆れた顔をしたボーシヤが、それでも優しい顔で「すまないな。」と謝る声が聞こえた気がして。

ふっと、一気に肩の力が抜けた私はそのまま震える声でマークを絞り出す。


「…ハート。」


ピタリ。
カウントがゼロになる。
中央刑務所に、爆発音が鳴り響いた。

観念しなよ→←勘だね

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