うさぎパン (ページ15)

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握手ページ15

始まりは、パンだった。

よくあることだけど、第一回のホームルームは、自己紹介だった。

この高校は地元の中学から上がってくる子がほとんどなので、みんなお互いに顔見知りだ。
わたしは初めから、ちょっとした転校生のような扱いを受けていた。

まだ雅紀とも仲良くなる前で、このまま友達ができなかったらどうしよう、と本気で心細かった。
今から考えると、まるで小学生のような悩みなのだけれど、わたしは変なところで小心者なのだ。

慣れない共学の雰囲気も、わたしをひるませた。

自己紹介はいたって普通に進んでいった。
ちゃんと聞いているのはわたしくらいだったと思う。
担任の、平板な顔をした中年の女の先生も、がやがやと騒がしいのをとがめるでもない。

ひとりひとりの名前と顔を頭にたたきこみながら、わたしのときもなんとなく流れてくれますように、と祈るような思いでいたが、やはりそうはいかなかった。
わたしの番がくると、教室はしんと静まった。

わたしはいたたまれない思いで立ち上がり、名前と住んでるところを言い、なぜここに転校......ではなく入学してきたかを説明した。
よろしくお願いします、と言って座ろうとしたそのとき、誰かが突然、

「好きなものはなんですか？」

とさけんだ。

好きなもの？

唐突に聞かれ、わたしの頭は真っ白になった。
たぶん質問の意図としては趣味・特技あたりが聞きたかったのだと思うけれど、わたしはとっさに、

「パンです」

と言ってしまった。

パン？

教室の空気が少しとどこおる。
みんなちょっと困った顔をしているのがわかった。
しまった、つっこみにくいコメントをしてしまった。

「はい！僕もパンが好きでーす」

そのとき、斜め前の席の男の子が立ち上がって、大げさな身ぶりで握手を求めてきた。
みんな一瞬きょとんとして、そしてどっと笑う。

「文化祭は一瞬にパン屋やりませんか？」

おまえとはやらねーよ、と野次られつつ、大野くんはわたしの手を握ってぶんぶんとふった。
手のひらが熱かった。

雅紀によると、ここですでにわたしは「ふらっときちゃった」らしい。

「あれで大野は差をつけたわけだ」

優子は気になるひととかいないの、としつこく聞かれてしぶしぶ打ち明けると、何度もうなずきながら雅紀は言った。

さすが百戦錬磨、察しが早い。