名前 ページ6
美味しそうな香りがした。
パチパチと炎が燃える音がする。
ゆっくりと目を開けると、ここが洞窟であることがわかった。
壁である岩に誰かの影がうつっている。
「うっ、」
起き上がろうとすると、体が悲鳴をあげた。
痛いわけではない、動かないのだ。
「起きたか」
私と同じ、青い瞳と目があった。
白い髪。あの子に似ている。
洞窟は狭く、本来は独り暮らしなのだとわかる。
「ここは…………」
「アイスランドの竜の国だ。覚えておるか？丸一日眠っていたが」
「そんなに…………」
どうりで体が動かないわけだ。
でもお腹は空かない。
「わしはリンデル。お主は？」
名前、を聞かれているのだろう。
そもそも名前ってなんだっけ。
遠い過去、呼ばれていた名前を思い出す。
「…………A」
「そうか、Aか」
久しぶりに呼ばれた名前。
なんだかこう、胸がくすぐったい。
「トナカイの肉のシチューじゃ。食べなさい」
「ありがとう」
シチューが並々よそわれたお椀を受けとる。
まだ湯気が上がっていた。
それをじっと見つめる。
「…………食べんのか」
「い、いえ。いただきます」
一口、食べてみる。
ふわりと優しい味が広がる。
久しぶりのまともな食事だった。
それでも食欲はわかない。
「その呪い………どうしたんじゃ」
「これは、新しい主につけられて」
「主？」
「えっと、私を買った人、です」
それを聞いたリンデルの表情は険しくなった。
呪いの傷は手当てをされていた。
包帯が巻かれている。
「逃げてきたのか？」
「いえ、捨てられて」
「そうか………いらぬことを聞いたな」
「気にしないでください」
捨てられたからといって、悲しい訳じゃない。
いつも売られるか捨てられるかだ。
とろん、と瞼が下がってくる。
溢れそうになるシチューを慌ててリンデルが受け止めた。
そして微笑む。
「話をして疲れたのだろう。明日は知人が来る予定だから、今のうちに寝ていなさい」
「でも、リンデルさんが寝る場所………」
「そんなこと気にするでない」
閉じていく瞼。
結局、ほとんどシチュー食べてないな。
そう思いながら眠りに落ちた。
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零斗(プロフ) - とても面白かったです！これからも更新頑張って下さい！ (2020年3月13日 14時) (
レス) id: 300461bf22 (このIDを非表示/違反報告)
有馬 - ものすごい面白いです！気長に更新待ってます！ (2019年3月24日 22時) (レス) id: c318382072 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：翡翠 | 作成日時：2019年1月3日 11時
