世界で一番大切な人【中島敦】02

【episode 89】#You ページ41

太宰さん、助けて。


心の中でただひたすら願った。

芥川が私を見てる。
中原さんは俯いているため顔は見えないが、それが逆に怖い。


早く、解放して欲しい、
用って何、私に用事って、

怖い、助けて、でもそうしたら敦が

私はどうしたらいいの、

なんだか訳がわからなくなってきた。
耳元で太宰さんが何か言っているが、片方の耳から通り抜けていく。


敦、会いたい、



『おーい、Aちゃーん？
私の話聞いて』



「ああもううるせェ！！」



いきなり響いた中原さんの大声。
それと同時に私の手から携帯が奪い取られ、太宰さんの声が途端に聞こえなくなった。


「あ……」


電話…切られた…？


「太宰さ、」


「ほんっとうるせェ！
こっちまで丸聞こえなんだよ！」


唯一の連絡手段を断ち切られ、私は我に帰る。
どうやら、太宰さんの声が中原さんにも聞こえていたらしくものすごいキレられた。

どうしてそんなに怒られるのか不思議だが…

とにかく私は携帯を返してもらうべく、中原さんに手を伸ばすもバシッと払われてしまった。



「芥川！手前焦れったいんだよ！」


中原さんは眉間にしわを寄せながら芥川へと強く吠えた。
そして私の携帯を勝手に操作している。


何してるんだろ、
ば、爆弾の機能とか、そういうのつけられてるのかな。
次、電話に出たら爆発するように仕掛けられちゃったのかな。
でもそんな機能あるのかな、


考えれば考えるほど不安になっていく。

携帯を操作し終えた中原さんは私の方へギロリと視線を向けた。


「あと手前！
その気持ち悪い外套着るのやめろ！！」


ビシッと私へと指を指す中原さん。
思わず私は「へ…？」というまぬけな声が出てしまった。

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